ベネッセコーポレーションと、AIの研究開発や社会実装で日本のトップを走るPKSHAテクノロジーがタッグを組み、AIサービス「AIストライク」を完成させた。AIの最先端にいる彼らに、日本のAIの将来を伺った。
立命館大学の入試でAIが活用され始めたことが話題です。大学が望む学生に合わせてAIが入試を作問する未来が来そうですね。
永田氏大学入試で、生徒の学習履歴やAIによる評価を利用する時代が来ているのかもしれません。実は、AIによる入試作問も可能なほど技術は向上しています。
例えば、「AIストライク」は、「計算力」や「思考力」、「図解力」といったものを理解する力などで生徒の能力を計測しています。その他、粘り強く取り組む姿勢などの学力以外の項目も評価される時代が来ると思います。
森下氏このようなスキルや大学受験模試のデータなどを組み合わせれば、どんな問題を出題したらどれくらいの学生が解けるかの予測が一定可能になります。大学側は欲しい学生の能力を決めれば、何人集まるか予測できたり、その判別に最適な入試作問をAIに担わせたりもできるでしょう。
「AI学習サービス」業界の最前線にいるお二人ですが、今、この分野の旬はなんですか。
永田氏これからは、AIで収集・分析した情報をどう活用するかが焦点になってくると思います。入試にAI学習サービスを使う事例も増えるでしょう。
ですが、今最も旬なのは、「アタマプラス」さんや弊社の「AIストライク」をはじめとして、生徒の学力や得意不得意に応じて最も効率的な学習を提供する、いわゆるアダプティブラーニングの質が問われていることでしょう。
AI学習サービスが、「AIだから」というだけで売れる時代は終わりました。これからはAIで生徒の学びをどれくらい効率的・効果的に行うかが問われそうです。
「自分にとっての理想」は一人ひとりで全く違う
300塾関係者への取材で、効率的な学習が「AIストライク」の強みだと伺いました。少ない職員で幅広い学力層を指導しなければならなくなった塾でも、こうした効率化は役立ちそうですね。
森下氏はい。ここは武器にしている部分です。「AIストライク」では、一つの理想の教育を押し付けたいわけではありません。むしろ、標準的な教育に合わない生徒一人ひとりが効率的に学習できるようにサポートするイメージです。
「AIストライク」を使い始めると、まず生徒さんは、「進研ゼミ」をはじめとしたベネッセさんのノウハウや、統計データに基づいた理想的な学習ルートから始めます。
そして、アプリを使うにつれ、その生徒さんの特性や得意不得意をAIが分析し、最も効率的な学習を提供します。
要は、「統計的な理想」から始めることができ、使えば使うほど「自分にとっての理想」の学習ができるアプリなのです。これを実現できたのは、教育業界屈指のノウハウを持つベネッセさんだからこそでしょう。
今、地方の塾では社員とアルバイトの採用難が課題です。AIはこの課題解決の糸口になりますか。
森下氏「人の仕事をAIに置き換える」のではなく、「人とAIが協力して仕事に取り組む」と考えることが大切です。
例えば、AIが過去の学習データを基に生徒に最適な学習プランを提示し、先生は生徒を励ましたり、勉強のアドバイスをしてあげるというような連携をすれば、より少ない職員でより多くの生徒を指導することが可能になるでしょう。
もちろん、AIが読み込めるデータはまだ限られていますが、その技術向上も期待されます。
10年後の「AI学習サービス」はどうなりますか。中国や韓国など、海外の事例も含め、日本でのAI活用のあり方を教えて下さい。
永田氏中国、韓国では、日本よりも遥かに技術が進んでいます。
中国では、すでに文章問題や数学の解答に対して部分点をつけられる技術があります。
韓国でも、問題を画像で認識し、瞬時に解答を出せる技術があります。
これらに比べると、日本は遅れているといわざるを得ません。チャットGPTなど既存の技術の活用や、日本企業がどこまで投資できるかが課題ですね。
森下氏今の日本の教育では、知識の暗記が重要ですが、今後は、「AIがある前提でどのように成果を出すか」という創造力も重要になるでしょう。こうした力が大学受験で必要になるかもしれませんね。
永田氏総合型選抜の割合も増えているので、大学入試では5教科を超えて様々な領域での成果が求められるようになります。
それに対応するために、学校や塾現場でも一層、AI活用が進むのではないでしょうか。(談)
(2024年3月取材/文責 井上 孟)