2024.6.26東洋経済新報社主催のイベント『10年後の勝ち組はここだ 「本当に強い大学」の選び方』に弊社取締役の西田が登壇しました。
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どうなる新設の摂南大学現代社会学部
改革の源は「専門職業人育成」精神が軸

荻田 喜代一
    摂南大学 学長
    おぎた・きよかず/11代学長。1977年近畿大学薬学部卒業。79年長崎大学大学院薬学研究科製薬化学専攻修士課程修了。83年大阪市立大学大学院医学研究科生理系専攻博士課程修了。84年摂南大学助手に。講師、助教授を経て2004年教授。薬学部長、大学院薬学研究科長、教務部長、副学長を歴任。医学博士(大阪市立大学)。大阪府出身
    摂南大学ホームページ

    名門薬学部を筆頭に理工、国際、経営、法、経済、看護、農、現代社会の9学部17学科を有する総合大学の摂南。2023年に毎日放送や北大阪商工会議所などと連携予定の現代社会学部を新設し、今後も情報系をベースとした新たな展開を検討しているという。在学生は1万人を超えた。これら改革の勢いの源はどこからなのか。関西私学で数少ない理系に強い大学として、これからの関西私学のあり方のヒントを語ってもらった。

    東洋経済臨時増刊『本当に強い大学』(2023年5月31日号)で私が執筆した全国300塾の大学イメージ調査で、貴学は、薬学部が「関関同立並み」の伝統と格で、農学部が注目されつつあり、関西私大では数少ない、理系分野に強い総合大学という評価でした。

    学長学校法人常翔学園(摂南大学、大阪工業大学、広島国際大学の3大学、2高校、2中学)の出発点は、「専門職業人育成」です。専門技術者不足だった当時の社会要請に応える形で開学したのが学園のプライドです。

    その本学園への社会要請とは、土木建築分野でした。大正時代末期の大阪の物流は、水運から陸運への転換期で、現場監督や図面を引ける職人が、大阪府庁内部で必要とされていました。そのような人材を教育する学校が必要となり、本学園の発祥となる関西工学専修学校が創設されました。22年に創立100周年を迎えました。

    理工系分野の業界といえば国公立大学の学閥が強いです。

    学長確かに国や企業のトップには国公立大学で学位を修めた方々が多いでしょう。対して本学は、理論に裏付けされた技術を現場で発揮できる人材を育成してきました。よって、国公立大学とは違う視点で、本学の役割を果たしてきたのです。

    そして、行政や中央官庁の関係者にも、本学園の卒業生が多く活躍しています。

    前述の塾関係者によれば、関西の私大は理系学部が弱いという評価です。関関同立、産近甲龍などの関西の主要私大で理系の在籍生が過半数を超えるのは近畿大学、大阪工業大学と貴学くらい。常翔学園全体で見たとき、理系の人材輩出は「関関同立」に匹敵するか「産近甲龍」以上の規模になりますね。

    学長おっしゃる通り、学園創設時も関西には私学の理工系の学校が少なかった。そういうことで本学も社会の要請に応えて開学したのです。

    一方で貴学は外国語学部を国際学部に改組するなど、文系学部も充実していますが、文学部がありません。貴学に限らず関西の私大には少ない印象です。

    学長本学は、23年に現代社会学部を新設しましたが、実はその新学部検討の段階で、文学部案もありました。ただ、前に説明した「専門職業人育成」の理念を考えると、新設するには至りませんでした。

    また、22年の国際学部改組の理由は、その話とつながります。要するに、単なる語学教育にとどまらず、国際的な課題を見つけ挑戦し、国際社会に貢献できる「人材を育てる」ための措置でした。

    ベンチマークは 「近畿大学」
    情報系学部の新設も視野に

    『塾ジャーナル』(22年11月号)で私が寄稿した塾への調査で、貴学は入試広報、改革面で大阪では近畿大学に次ぐ評価でした。

    学長近畿大学をベンチマークしています。『週刊ダイヤモンド』の大学特集では、「近大のコバンザメ大学」なんて揶揄され話題になりました。ただ、本学としては、その立ち位置は成功だと思っています。

    しかし、これからは、ただのコバンザメではない、従来とは違ったことで勝負しないと、発展はないと思っています。

    例えばどんなことでしょうか。塾関係者からは貴学が建築学部や情報学部、データサイエンス学部(以下DS学部)ができたら成功するという意見もあります。

    学長実は、建築学部、DS学部新設は、学内で議論に上がりました。現在、理工学部で学べる分野ですが、他大学も学部新設の動きが活発で、今更感があるといった意見もあり、現在は、あっと驚くような学部・学科を創りたいと思っています。

    具体的には、情報系をベースに考えていますが、建学の精神に立ち返ると、それだけではやはりしっくりこない。ですから、「情報」×「◯◯」といった、何かを掛け合わせて幅広い職業人を育成できる学部を思案中です。今必要なのは、「情報を学ぶ人」ではなくて「情報を使いこなせる人」ですから。

    モットーは「学生の成長第一主義」

    どのような入学生を求めていますか。

    学長例えば、農学部食農ビジネス学科の入学生はやりたい仕事が明確です。学内では、目的意識の高さも圧倒的で、入学後の思考力テストの結果は、彼らが一番高かった。

    よって、私としては、ますます「偏差値とは何か」と考えるわけです。塾や予備校さんは、まさに偏差値で大学選びをサポートされるでしょう。

    ただ、思考力が高い学生は、入学後に大きく伸びる可能性があることを知って欲しいです。本学はやはり大学で頑張りたい学生に来て欲しい。単に偏差値だけで大学を輪切りにされてしまうことに、葛藤があります。だから、一般選抜試験以外にも力を入れていきます。

    大学の価値とは何ですか。

    学長薬学部長のときには、専門的知識・技能をどのようにつけるべきかを中心に考えていました。しかし、15年に教務部長として全学教育を担当し、大学全体の価値、大学教育の本質を本気で考え直さなければならないと思いました。

    それは、理系・医療系・文系学部のいずれにおいても「何のために大学で学ぶのか」「何を大学で学ぶのか」「卒業時にどんな力をつけているのか」を問い続けながら、学生の成長のための学びの場を創出していくことです。学長となった今も、日々学生の成長を追求しながら大学改革を推し進め、大学の価値を高め続けています。その成果の一つとして、実就職率が関西の私立総合大学で上位を保っています(22年度は1位)。

    関西以外の読者のために、大阪にある貴学を目指すメリットを教えてください。

    学長本学はもともと理系スタートだからなのか、文系の学生にも理系の考え方が浸透しているのが本学の教育の強みです。文理の共通科目だけでなく、副専攻課程で文理横断の学びも可能です。さらに、卒業研究も全学部の全ての学生に対して必修にしています。

    そして、私の教育キーワードは「混ぜる」なんです。よって、いろんな分野の学生が一緒のテーブルでアクティブラーニングをする形式を基本として、これまでにもさまざまなプログラムを考え、実践してきました。そこで常にどんな化学反応が起きているのかをチェックしています。

    特に意識しているのは「人間力」や「主体性」の醸成です。「教えない教育」ともいっていますが、そのために「学びたい」「やってみたい」と思ってもらえるような多様な学びの環境を用意しています。

    近年の入学者の追跡調査では、探究学習を実践したAO入試などで入学した学生の伸び率が高い結果が出ています。こういった背景から、AO入試などの総合型選抜の定員を増やすことを視野に入れて学生募集環境を整えていきます。

    ぜひとも、高校現場や塾現場でもっと「探究学習」に力を入れていただきたいですね。(談)

    (2023年5月取材/文責 西田 浩史)

    ルートマップマガジン社 取締役/雑誌編集局 ルートマップマガジン編集部 編集長
    追手門学院大学客員教授、教育ジャーナリスト、『大学ジャーナル』編集部 編集委員、アロー教育総合研究所 客員研究員。2016年 ダイヤモンド社『週刊ダイヤモンド』記者(学校・教育産業担当)、他学習塾業界誌の私塾界『月刊私塾界』、塾と教育社『月刊塾と教育』記者、追手門学院大学アサーティブ研究センター客員研究員を経て20年から現職。『現代ビジネス』『週刊朝日』『サンデー毎日』『週刊エコノミスト』『週刊東洋経済』『東洋経済オンライン』『週刊ダイヤモンド』『ダイヤモンド・オンライン』など教育関連記事の寄稿、コメント多数。全国4,000塾、予備校(関係者20,000人)の取材達成(2022年11月現在)。
    著者に『医学部&医者』『関関同立』『最強の高校』(すべて週刊ダイヤモンド 特集BOOKS ダイヤモンド社)など。放送大学大学院文化科学研究科修士課程在籍中

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