ただ、大学附属校が増える傾向は、今後も加速すると思います。一方で、必ずしも進学校が大学を作るかというと、そうでもないと思っています。
その成果も如実に表れています。
例えば、本学の卒業生には、プリンストン大学からカリフォルニア工科大学に進学し、世界最先端の量子コンピュータの研究をしている関根崚人さんがいます。
また、小川哲さんは、東京大学の博士課程で数学の研究をするかたわら、山本周五郎賞を受賞し、第162回直木賞候補にもなりました。
彩瀬まるさんは、第158回直木賞候補になるなど、本学には、第一線で活躍する方々がたくさんいます。
そもそも、学校とは、生徒の人観の基礎を養うところです。その人生観をもって世の中の人を感動させる作家を輩出し始めたのはとても嬉しいことですね。
保護者、学習塾、ジャーナリストと連携 公立の牙城を崩し躍進
例えば、管理型の団体教育についてですが、これは、戦前からの日本の教育の延長です。戦前の日本は国を強くするために兵隊を育成し、戦後は国を豊かにするという名目で企業戦士を養成してきました。
結果、団体教育はうまく機能し、日本は世界第二位の経済大国となれたわけです。
ただ、これからは、個の多様性を育てることが求められていると思います。
私は中央教育審議会の委員として、2006年の教育基本法の改革に関わりました。
この改正により、新たに男女平等や、個人の価値を尊重すること、そして私立学校や高校、大学についても初めて記載されました。これでようやく、保護者の教育に対する要望を私立学校が受け入れる法的な土台が整ったわけです。
なお、本学は、1983年の開校当初から、男女が平等に教育を受け、人として成長してもらう方針を採っています。
さらに、年に2回実施している地区別懇談では、保護者の意見を校長が直接聞き取り、学校運営に反映させています。
中学校開設時、県内の全ての小学校に向けて説明会のご案内をしても出席は1校のみ、本学のようなヒエラルキーの外側の学校はかやの外という状態でした。
そこで、私たちは保護者、教育ジャーナリスト、そして学習塾の先生方へ向けて本学の教育や入試に関しての情報発信を行いました。
キャリアガイダンスが生徒のやる気を刺激
進
本学には、多種多様で活動的な先生たちが生徒を導きつつ、面倒もしっかり見てくださっています。先生方が教育に面白さを感じると、学校にも元気がでてくるのです。
つまり、先生が生徒に明るい将来への道筋を示し、生徒が自らの未来を拓きたくなるような環境を整えているのです。子どもたちにワクワクする学園生活を送ってもらうことが大事なのですね。
ただ、これは仕組みに落とし込めない難しい部分もあります。
これは、「自分で調べ、自分で考える」とご理解いただくことが多いのですが、本来の意味は、「自分を調べ、自分を考える」というもっと広い意味が込められています。
中学高校時代とは、子どもから大人になる時期です。この時期にまず、自分がどのような人間なのかを自己認識をします。そして、自分を確認できたら自己肯定感が生まれる流れの時期なのです。
結果、自己肯定感によって、自ら考えた方法で学習し、その後の自己実現ができるようになるのです。いわば「人生のルート」といえるでしょう。
そこでは、卒業生を中心に外部の方をお招きし、生徒が仕事についての話をとことん伺います。自由参加で、年20〜30回ほど開催していますが、現状、生徒の出席率も高いですね。
ただ、進路指導といういい方は本学ではしていません。理由は、人生をどう送るか、という問いがまずあり、その選択肢の一つとして、大学進学という手段がある、と位置づけているからです。
例えば、ノーベル賞受賞作家の大江健三郎さんの、著書「自分の木の下で」には、本学の教壇に立ち授業をされたことが書かれています。先程ご紹介した、小説家の彩瀬まるさんも、大江先生の授業の中で、直接作文の添削指導を受けた一人です。
他にも、弁護士によるキャリアガイダンスや模擬裁判の体験から裁判長を目指し、東京地裁の判事補になった卒業生もいます。
各自が、自分の夢を決め、そのためのベストな選択を考え始めると、大抵は狭き門、つまり東大進学が視野に入ってきます。自然とそこにチャレンジする生徒が多くなるわけです。
さらに、学べることの選択肢が広いです。入学時に分野を絞りきれない場合、東京大学に進学したほうがいろいろな可能性もあります。
実際、東京工業大学で研究している先生も、研究したい分野が明確でない場合は東京大学を薦めるとおっしゃっていました。
帰国生の受け入れで、海外大学進学率が上昇
ただし、海外を含め、卒業後の様々な選択肢を知る機会は広く提供しています。
ただ、様々な国から異なる文化の中で育ってきた帰国生たちをサポートする先生方のご苦労は本当に大きかったと思います。
それに対し、本学は英語のみの試験で選抜し、基礎から丁寧に6年間かけて教育しています。
本学は、そういう基本的な努力は惜しんではならないと考えています。
実際、今年東大理Ⅲに合格した2名のうち、一人は帰国生です。他にも、東大を出て国家公務員試験に一番で合格した子もいます。
このように、帰国生でも、サポートをしっかり行えば、自然と成長します。
これは、毎年本学が進学実績を出している結果だと思います。
これからは、多様な進路の提案が求められる
もちろん、それも大切ですが、これからはより高いレベルでの多様性が求められるでしょう。
そのアクティブ・ラーニングを身につけると、学習態度が変わります。教える側も教わる側も、積極的に向き合うようになり、研究に多様性が生まれます。
私は、多様性が高くなった結果として、世界レベルの研究が増えるのではないかと期待しています。
そして、京都大学や早稲田大学、慶應義塾大学などがそれにどこまでついていけるかは未知数です。今後に期待したいですね。
現在、日本では、就学前教育や、高等教育の無償化の制度が整いつつあります。このように広く教育が一般化されるなかでは、より多様な進路や学びの選択肢を求める保護者も出て来るはずです。
この『ルートマップマガジン』は、そうした進路や学びの情報を提供するのでしょう。
本学でも、海外進学の選択肢など含め、子どもたちの多様な志を支援する環境がだんだん整ってきました。
多様性の高い教育、研究、社会を実現するため、ぜひうまく機能していただきたいと思います。(談)
(2022年9月取材)