2024.6.26東洋経済新報社主催のイベント『10年後の勝ち組はここだ 「本当に強い大学」の選び方』に弊社取締役の西田が登壇しました。
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戦前からの公立の牙城で 多様性を追求した40年間

田村 哲夫
    学校法人渋谷教育学園 理事長・学園長
    たむら・てつお/1936年東京生まれ。58年東京大学法学部卒業。住友銀行を経て、70年学校法人渋谷教育学園理事長に就任。83年渋谷教育学園幕張高等学校を創立、続いて86年同中学校を設置し中高一貫校とする。96年渋谷教育学園渋谷中学校、99年同高等学校を開校。文部科学省中央教育審議会副会長、日本私立中学高等学校連合会会長、日本ユネスコ国内委員会会長など公職を歴任。
    田村 聡明
      学校法人渋谷教育学園 幕張中学校 幕張高等学校 校長
      たむら・としあき/1968年東京生まれ。91年慶應義塾大学経済学部卒業。三菱銀行(現三菱UFJ銀行)を経て、2003年学校法人渋谷教育学園 幕張中学校・高等学校副校長に就任。22年より現職。ほかに早稲田大学系属早稲田シンガポール校取締役、東京医療保健大学副理事長、幕張インターナショナルスクール理事、ユネスコ・アジア文化センター監事。

      今年設立40年を迎える渋谷教育学園幕張中学・高等学校。今年は東大合格者数74人で、人気や難度が御三家と拮抗しつつある。国内外で活躍する卒業生を生み出す教育哲学から、今の教育業界の課題までを学園長、校長から伺った。

      近年伸びている中高は、新しく大学を設置して、一貫教育の理想形を作る傾向があると見ています。例えば西大和学園は大和大学、桐蔭学園も桐蔭横浜大学を設立しました。例えば、貴学は理想の教育を目指すために大学を作る予定はあるのでしょうか。

      校長私たちは考えていません。

      ただ、大学附属校が増える傾向は、今後も加速すると思います。一方で、必ずしも進学校が大学を作るかというと、そうでもないと思っています。

      学園長中学校入学から高校卒業までの6年間とは、生徒が子どもから大人へ成長する時期です。本学では、卒業後に大学や社会で活躍できるような教育を精一杯、行っています。

      その成果も如実に表れています。

      例えば、本学の卒業生には、プリンストン大学からカリフォルニア工科大学に進学し、世界最先端の量子コンピュータの研究をしている関根崚人さんがいます。

      また、小川哲さんは、東京大学の博士課程で数学の研究をするかたわら、山本周五郎賞を受賞し、第162回直木賞候補にもなりました。

      学園長は過去、NIKKEISTYLEの取材で、「作者を輩出すれば学校としては一人前」とおっしゃっていましたね。

      学園長はい、そうです。

      彩瀬まるさんは、第158回直木賞候補になるなど、本学には、第一線で活躍する方々がたくさんいます。

      そもそも、学校とは、生徒の人観の基礎を養うところです。その人生観をもって世の中の人を感動させる作家を輩出し始めたのはとても嬉しいことですね。

      保護者、学習塾、ジャーナリストと連携 公立の牙城を崩し躍進

      学校の校風には様々なものがあります。管理型もあれば、貴学のようにアットホームで自由な学校もあります。これからの私学はどうあるべきだとお考えですか。

      学園長私は、いろいろな学校があって良いと思います。

      例えば、管理型の団体教育についてですが、これは、戦前からの日本の教育の延長です。戦前の日本は国を強くするために兵隊を育成し、戦後は国を豊かにするという名目で企業戦士を養成してきました。

      結果、団体教育はうまく機能し、日本は世界第二位の経済大国となれたわけです。

      ただ、これからは、個の多様性を育てることが求められていると思います。

      私は中央教育審議会の委員として、2006年の教育基本法の改革に関わりました。

      この改正により、新たに男女平等や、個人の価値を尊重すること、そして私立学校や高校、大学についても初めて記載されました。これでようやく、保護者の教育に対する要望を私立学校が受け入れる法的な土台が整ったわけです。

      なお、本学は、1983年の開校当初から、男女が平等に教育を受け、人として成長してもらう方針を採っています。

      さらに、年に2回実施している地区別懇談では、保護者の意見を校長が直接聞き取り、学校運営に反映させています。

      80年代の貴学開校時の千葉県は、完全なる公立王国であったかと思います。どのように多様性といった新しい教育を推進されてきたのでしょうか。学習塾や比較的裕福な層との接点を意識されてきたと聞きました。

      学園長開校当時の千葉県の学校は、公立トップ校を中心にしたヒエラルキーが完全に出来上がり、強いものがありました。

      中学校開設時、県内の全ての小学校に向けて説明会のご案内をしても出席は1校のみ、本学のようなヒエラルキーの外側の学校はかやの外という状態でした。

      そこで、私たちは保護者、教育ジャーナリスト、そして学習塾の先生方へ向けて本学の教育や入試に関しての情報発信を行いました。

      キャリアガイダンスが生徒のやる気を刺激

      学実績が上がった秘訣は何でしょうか。

      校長東京大学、京都大学などへの進学は、学校が強制するものではありません。子どもたちの自主性を育んだ結果、進学実績が伸びたわけです。

      本学には、多種多様で活動的な先生たちが生徒を導きつつ、面倒もしっかり見てくださっています。先生方が教育に面白さを感じると、学校にも元気がでてくるのです。

      つまり、先生が生徒に明るい将来への道筋を示し、生徒が自らの未来を拓きたくなるような環境を整えているのです。子どもたちにワクワクする学園生活を送ってもらうことが大事なのですね。

      ただ、これは仕組みに落とし込めない難しい部分もあります。

      学園長本学の教育目標のなかで最も大切にしているのが「自調自考」です。

      これは、「自分で調べ、自分で考える」とご理解いただくことが多いのですが、本来の意味は、「自分を調べ、自分を考える」というもっと広い意味が込められています。

      中学高校時代とは、子どもから大人になる時期です。この時期にまず、自分がどのような人間なのかを自己認識をします。そして、自分を確認できたら自己肯定感が生まれる流れの時期なのです。

      結果、自己肯定感によって、自ら考えた方法で学習し、その後の自己実現ができるようになるのです。いわば「人生のルート」といえるでしょう。

      その「人生のルート」である進路指導は貴学ではどうされておられますか。

      校長進路に関しては、「キャリアガイダンス」を行っています。

      そこでは、卒業生を中心に外部の方をお招きし、生徒が仕事についての話をとことん伺います。自由参加で、年20〜30回ほど開催していますが、現状、生徒の出席率も高いですね。

      ただ、進路指導といういい方は本学ではしていません。理由は、人生をどう送るか、という問いがまずあり、その選択肢の一つとして、大学進学という手段がある、と位置づけているからです。

      具体的にはどのような内容ですか。

      校長銀行、医者、国際NGO、起業などの様々な仕事を深堀りするスタイルで講演していただいています。最前線で何が起こり、現場の人たちはそれをどのように考えているのかといった内容です。

      例えば、ノーベル賞受賞作家の大江健三郎さんの、著書「自分の木の下で」には、本学の教壇に立ち授業をされたことが書かれています。先程ご紹介した、小説家の彩瀬まるさんも、大江先生の授業の中で、直接作文の添削指導を受けた一人です。

      他にも、弁護士によるキャリアガイダンスや模擬裁判の体験から裁判長を目指し、東京地裁の判事補になった卒業生もいます。

      各自が、自分の夢を決め、そのためのベストな選択を考え始めると、大抵は狭き門、つまり東大進学が視野に入ってきます。自然とそこにチャレンジする生徒が多くなるわけです。

      では、貴学が「魅力的な教育をしている」と考える大学はどこでしょうか。

      校長東京大学です。まず、研究予算の大きさが違います。他大学よりも圧倒的に予算が多く、研究にも深みが出せています。

      さらに、学べることの選択肢が広いです。入学時に分野を絞りきれない場合、東京大学に進学したほうがいろいろな可能性もあります。

      実際、東京工業大学で研究している先生も、研究したい分野が明確でない場合は東京大学を薦めるとおっしゃっていました。

      帰国生の受け入れで、海外大学進学率が上昇

      貴学は日本で初めて国内大学に加えて海外大学の合格実績を公表しました。これにはどのような意味があったのでしょうか。最近では開成さんも海外進学実績を公表するなどしています。

      校長これは、特定の大学への進学者を増やそう、という考えがあるわけではないのです。その点は他の学校と大きく違う特色だと思っています。

      ただし、海外を含め、卒業後の様々な選択肢を知る機会は広く提供しています。

      学園長海外大学進学が増えた背景には、、開校当初から帰国生を受け入れたことが大きく影響しています。私は、当時の卒業生が活躍する21世紀は、国際化が進み、多様性が尊重される社会になるだろうと考えて決断しました。

      ただ、様々な国から異なる文化の中で育ってきた帰国生たちをサポートする先生方のご苦労は本当に大きかったと思います。

      どうやって日能研、サピックス、四谷大塚でガリガリ勉強してきた一般の子と帰国生を溶け込ませたのですか。

      校長帰国生と一般生では、それぞれ「認められたいこと」が全く違います。そのため、本学の先生方は、「教科の先生」という立場を超えて、全人格的な指導をしたり、生徒に寄り添ってサポートをすることに力を入れました。

      学園長現在、帰国生を受け入れている学校は多いですが、これは英語も日本語もきちんとできる子を入試で選抜しています。

      それに対し、本学は英語のみの試験で選抜し、基礎から丁寧に6年間かけて教育しています。

      本学は、そういう基本的な努力は惜しんではならないと考えています。

      実際、今年東大理Ⅲに合格した2名のうち、一人は帰国生です。他にも、東大を出て国家公務員試験に一番で合格した子もいます。

      このように、帰国生でも、サポートをしっかり行えば、自然と成長します。

      海外大学の入学選抜対策のサポートはどのように行っておられますか。

      校長学内に国際部という部署があり、海外大学サポートを専門に担当する先生がいます。

      海外大学から貴学の生徒をスカウトに来る、という話を聞いたことがあります。

      学園長スカウトではなく、アドミッション・オフィスの担当者が大学の説明をしに来ます。

      これは、毎年本学が進学実績を出している結果だと思います。

      校長さらに、卒業生が現地で活躍しているので、本学の教育を評価していただき、生徒のGPA評定平均も高く評価してくれるようです。

      これからは、多様な進路の提案が求められる

      アメリカの大学は多様性が高いと思いますが、国内でも多様性が高い大学があれば教えて下さい。

      校長多様性とは、外国人や価値観の違う人を受け入れる意味、と単純に考えないほうが良いと思います。

      もちろん、それも大切ですが、これからはより高いレベルでの多様性が求められるでしょう。

      学園長それを考えると、やはり東京大学ですね。東大は、一年生全員にアカデミック・ライティング・コースを必修にしています。これは、英語論文の書き方をアクティブ・ラーニングの形式で教えるものです。

      そのアクティブ・ラーニングを身につけると、学習態度が変わります。教える側も教わる側も、積極的に向き合うようになり、研究に多様性が生まれます。

      私は、多様性が高くなった結果として、世界レベルの研究が増えるのではないかと期待しています。

      そして、京都大学や早稲田大学、慶應義塾大学などがそれにどこまでついていけるかは未知数です。今後に期待したいですね。

      最後に、本誌に関してコメントをお願いします。

      学園長学習塾から大学まで一気通貫の雑誌ができることに、時代の変化を感じます。

      現在、日本では、就学前教育や、高等教育の無償化の制度が整いつつあります。このように広く教育が一般化されるなかでは、より多様な進路や学びの選択肢を求める保護者も出て来るはずです。

      この『ルートマップマガジン』は、そうした進路や学びの情報を提供するのでしょう。

      本学でも、海外進学の選択肢など含め、子どもたちの多様な志を支援する環境がだんだん整ってきました。

      多様性の高い教育、研究、社会を実現するため、ぜひうまく機能していただきたいと思います。(談)

      (2022年9月取材)

      井上 孟
      ルートマップマガジン社 代表取締役社長/海外大学ジャーナリスト
      大手通信キャリアにてM&A戦略のコンサルティング、『大学ジャーナル』編集部 編集委員。2012 年米国 Hult International Business School で経営学修士(MBA)修了。13年から経営コンサルタント。英国コンサルティングファームの世界最先端のビッグデータ解析手法を日産自動車などへ提供。15年より独立し、現職。現在、Google等のビッグデータを生かしたマーケティング手法を開発を軸に、16年から教育業界のデータ分析を開始。国内外約3000大学ビッグデータ分析を行う。『ダイヤモンド・オンライン』『週刊ダイヤモンド』『現代ビジネス』『週刊朝日』『塾ジャーナル』『週刊東洋経済臨時増刊』『サンデー毎日』などデータ寄稿や情報提供多数。その他、全国の大学や高校にて経営や広報に関するコンサルティングや講演を行う

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