2025.3.8講談社『週刊現代』2025年3月8日号『「SNS」でゆがむ世界』に弊社取締役の西田がコメント提供しました。
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【本誌独自調査】塾の注目度ナンバーワン 上智大学の理工学部の新学科に迫る

杉村 美紀
上智大学 学長
すぎむら・みき/17代学長。お茶の水女子大学文教育学部卒業、東京大学大学院教育学研究科満期退学。博士(教育学)。上智大学文学部教育学科専任講師、同総合人間科学部教育学科教授、上智大学学術交流担当副学長などを経て、2025年より現職
澁谷 智治
上智大学 理工学部長
しぶや・ともはる/上智大学理工学部長。東京工業大学工学部電気・電子工学科卒、同大学院理工学研究科電気・電子工学専攻修士課程修了。博士(工学)。東京工業大学工学部電気・電子工学科助手、上智大学理工学部情報理工学科准教授、同学科教授を経て、2022年より現職

上智大学は2027年4月に理工学部の新学科、「デジタルグリーンテクノロジー学科(略称:DG Tech)」を設置する。「国際交流が盛ん」「語学に強い」というイメージが強い上智大学だが、なぜ今、理系学部に注目が集まっているのか。同大学初の女性学長である、杉村美紀教授と、理工学部長の澁谷智治教授に話を伺った。

東洋経済新報社『本当に強い大学 2025』でも書きましたが、「今、注目している新設の理工学部・学科」の全国72塾関係者への調査では、2027年4月に設置される貴学の理工学部デジタルグリーンテクノロジー学科が1位で、同年9月に設置される東京大学の新学部「カレッジ・オブ・デザイン」と並びました。

杉村学長ありがとうございます。大変励みになります。

東大と貴学を併願する受験生が増えるのではという予測もあります。東京の「ど真ん中」の四谷キャンパスで文系・理系がワンキャンパスで学べるというメリットも塾関係者の中で改めて注目されています。

杉村学長うれしいですね。本学は研究者同士や産業界との「都心ならでは」の横のつながりを生かしつつ、学生にはのびのびとキャンパスライフを過ごしてもらえるように意識しています。

校風も都心らしからぬ「穏やかさ」を兼ね備えていますので、首都圏外にお住いの方にも安心して学んでいだけるはずです。

貴学の学生は都会の華やかさがある一方で、ものすごく勉強するイメージだと塾関係者は言います。中退率が主要大学と比べても低いです。

杉村学長本学のカリキュラムでは、一定の単位数を一定の期間内に取る必要があります。よって、学生も勉強に自然と力が入ります。

これは、本学の設立母体であるイエズス会の教育熱心な伝統を受け継いでいます。教員は、学生の担当を分担して受け持ち、進級もきちんとできるように常に気を配っています。

澁谷学部長例えば、理工学部であれば、一人の教員が1クラス、つまり60〜70人を担当します。だいたいの学生の名前は覚えていますし、卒業するまで責任を持って見ています。単位を落としそうな場合などは事前に面談をすることもあります。

これは、学生数を比較的少人数に絞っているからこそできる本学の強みだと思っています。

海外大と同じレベルでの理工教育を実現

新設のデジタルグリーンテクノロジー学科は、東大の新学部とほぼ同時期に新設され、英語での授業や学際的な学びの環境など、共通点も多いです。他、違いは何でしょうか。

澁谷学部長大きな違いは入学時期です。東大の新学部は9月入学のみで、本学の新学科は、4月と9月に入学が可能です。

おそらく東大は留学生の方が多く、本学は日本人と留学生が半々くらいになるでしょう。留学生と日本人がバランス良く交ざることで、日本国内でのみ教育を受け、海外経験がない学生にとっても、安心して学び、過ごせる環境をご用意できると思います。

規模も、東大は定員が100人なのに対して、本学は学科なので50人と小規模です。

その分、教員が学生のニーズに応えやすい環境になります。一人一人のサポートを充実させたいと思っています。

貴学の新学科の内容を具体的に教えてください。

澁谷学部長「英語による世界標準の理工教育」や「持続可能な社会実現に向けた研究」を行います。

新学科は、本学が2012年から設置している「グリーンサイエンス・エンジニアリング」の二つの理工学部英語コースを土台としており、10年以上にわたるノウハウがあります。それをさらに発展・拡充させていきます。

具体的には、データサイエンスやデジタル技術を中心として、電気・機械・生物・化学といった既存の理工学分野との複合的な学びを提供します。この幅広い知識と視野があれば、世界でも活躍できます。

海外の大学と同じレベルでアカデミックなコミュニケーションの実践経験を積むことで、世界中とのネットワークづくりや共同での仕事も容易になります。

杉村学長これにより、国際社会でリーダーとして活躍するだけでなく、世界の基準やルールを作る人材を育てます。

世界の「ルールづくり」 ができるリーダーを育てる

根本の基準やルールを作る人材ですか。中央大学の学長は、本誌インタビューで以前、司法試験合格者ではなく、法律を作る人材を輩出したいと答えています。貴学は、それを世界規模に拡大するイメージですか。

澁谷学部長日本は、これまで海外で作られたルールを甘受することも多々ありました。ですが、ITや情報をはじめとする理工系分野では、そのルールを自国に有利になるように働きかけていくことも重要です。そういった場で積極的なリーダーシップをとれてこなかった日本はこれまで多くの辛酸をなめてきました。

これからは、そうならないために、技術の知識が豊富で、英語でのコミュニケーションや交渉の能力があり、さらにリーダーシップもある人材を輩出し、日本の発展に貢献していきたいです。

例えば、ある分野で世界的な賞を受賞するような人材を育てるのは、タイミングや運にも関係してくるのでなかなか難しい。ですが、幅広い知識とリーダーシップを兼ね備えた人材ならば着実に育てることが可能です。

貴学といえば「グローバル人材の養成」をイメージする関係者も多いです。文部科学省による「スーパーグローバル大学創成支援事業」でも、中間評価と事後評価のすべてで最高の「S」評価を受けた唯一の大学になりました。

杉村学長今は、いろいろなところでグローバル人材と言う言葉を耳にしますが、それがどういう人材を指すのか、私たちはきちんと考える必要があると思います。

単に英語ができればいいわけではなく、相手や状況を見て、どの言葉でどのように交渉すればよいのかを判断し、説得する力が必要です。

いくら流暢に外国語を話すことができても、中身がなければ国際社会では全然相手に響かない。だから新学科では、そこを徹底して鍛えられるようにします。

さらに、グローバル人材のスキルで重要なのが、リーダーとして「調整する能力」です。

私は、ユネスコチェアの仕事をしており、国際会議にも参加する機会があります。そのような、世界各国のメンバーが一堂に会する会議では、必ず全加盟国の意見を聞き、それを取りまとめるのですが、これは本当に大変な作業です。

なぜなら、政策の違いなども重なり、時には正反対の主張が飛び交うからです。よって、合意事項を決めていくだけでもすごく時間がかかります。

そうした主義主張の激しい場で、自分の意見を積極的に発信し、さらにそれを取りまとめる、というのがこれからのリーダーに求められる役割なのです。

デジタルグリーンテクノロジー学科では、まさにそのような理系人材を育てていきます。

世界45カ国に広がる上智の卒業生ネットワーク

貴学の卒業生は国際機関など海外で要職に就くなど活躍している方が多いです。

杉村学長はい。卒業生は、政治、経済、ジャーナリズム、国際機関などさまざまな分野で活躍しています。

海外だけではなく、外務省など政府系の要職や国際機関で活躍する卒業生も多いですね。ある時期には、ロシアの在外公館の公館長がすべて本学卒業生だったという逸話もあります。

フランスのジャーナリズムの分野で活躍している卒業生もいます。

OB、OGを取材すると、海外で活躍している卒業生の話題は枚挙にいとまがありません。ですが、それは国内の教育業界にはあまり知られていないですね。

杉村学長ビジネス界にも多くの人材を輩出していますが、本学の学生数は慶應義塾大学の半分以下、早稲田大学の3分の1以下です。本学の卒業生の活躍をご存じない方が多いのも無理はないことだと思います。

本学の卒業生は、常に団結するよりも、自分らしい生き方や、自分の役割を信念を持って果たしていく方が多い印象です。本学のキャリアセミナーにご登壇いただくときも、ご自身の成果をぐいぐい語るよりも淡々と説明されています。

かといって、互いに無関心なわけではなく、何かあったときの結束力が強いのも特徴です。影で誰かのために働く卒業生も多いですね。For Others, With Others といって、「他者のために、他者とともに」というのが本学の教育精神ですが、その考え方が皆の心に根付いているのだと思います。

そうした生き方に惹かれた後輩が、先輩と同じような道を進む、というサイクルができています。

海外大学院に進学する卒業生も多いです。貴学は一流大学院に進学しやすいと話す塾関係者もいます。

杉村学長そうかもしれません。本学のカリキュラムは世界標準に合わせています。海外出身の教員も多いので、横のつながりで海外の研究室を紹介してもらうことも頻繁にあります。

デジタルグリーンテクノロジー学科では、世界各国からの留学生とともに英語で学ぶことができます。その経験を生かし、将来は世界中の学術界とネットワークをつくって活躍してもらうことまで視野に入れています。(談)

(2025年5月取材)

ルートマップマガジン社 取締役/雑誌編集局 ルートマップマガジン編集部 編集長
追手門学院大学客員教授、教育ジャーナリスト、『大学ジャーナル』編集部 編集委員、アロー教育総合研究所 客員研究員。2016年 ダイヤモンド社『週刊ダイヤモンド』記者(学校・教育産業担当)、他学習塾業界誌の私塾界『月刊私塾界』、塾と教育社『月刊塾と教育』記者、追手門学院大学アサーティブ研究センター客員研究員を経て20年から現職。『現代ビジネス』『週刊朝日』『サンデー毎日』『週刊エコノミスト』『週刊東洋経済』『東洋経済オンライン』『週刊ダイヤモンド』『ダイヤモンド・オンライン』など教育関連記事の寄稿、コメント多数。全国4,000塾、予備校(関係者20,000人)の取材達成(2022年11月現在)。
著者に『医学部&医者』『関関同立』『最強の高校』(すべて週刊ダイヤモンド 特集BOOKS ダイヤモンド社)など。放送大学大学院文化科学研究科修士課程在籍中

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