
京都ノートルダム女子大学の学生募集停止が、2025年4月25日に発表され話題だ。京都の名門女子「御三家」の一角で、小学校から大学院までを持つ。閉鎖の裏には、実は、補助金の打ち切りなどで「定員割れが続く大学は退場せよ」という文部科学省の意図が透けて見えると多くの京都の私立大学関係者は話す。そこで今回、大学の内部事情と財務事情に詳しい関東学院大学就職⽀援センター事務局次⻑の安田智宏氏と、大学経営のコンサルティングを行う津守健一氏に、大学を取り巻く現状を伺った。
全国の大学の財務を分析して、内部事情にも通じていると、大学職員の間で安田さんは有名ですね。
安田ただのマニアです(笑)。大学の財務は企業とは異なるため、読み解くにはある程度の専門知識が必要です。
塾関係者の間では、「老舗大学の閉鎖」が大きな話題になっています。
安田大学の閉鎖は話題になりやすいですが、実は、進路指導において気にかけたほうがよいのは、それだけではありません。
まず、大学は、お金がなくなると人件費や施設・設備費を削らざるを得なくなります。つまり、学生のキャンパスライフや教育環境、サポートの質が低下するわけです。
さらに、奨学金がもらえなくなるリスクや、大学の統廃合により、卒業後に自分の「母校」がなくなってしまうケースもあります。
そうした危険性も、進路指導に関わる塾の皆さんは知っておく必要があると思います。
奨学金のカットですか。
安田今のところ、突然経営破綻をして、大学が消滅するような事態はあまり起きていませんが、今後はそのような事態が生じる可能性も高くなるでしょう。
大学は財務情報を公開しています。それをきちんと読み解いて、質の低下や閉校のリスクを判断できると理想的です。
閉校リスクは年々高まっていますしね。
津守私は、15年以上にわたり、さまざまな大学の経営に関わっていますが、閉校のリスクは年々高まっているのを実感しています。
せっかく塾生を大学に合格させても、その翌年に大学が破綻したのでは目も当てられません。
大学の財務情報を読み解ければ、志望校の経営状態も簡単に推測できるので、おすすめです。
塾関係者が「財務情報」を読み、経営状態まで分析するのは難しそうです。
安田おっしゃるとおりです。ここでは、なるべく分かりやすく皆さんに大学の経営を取り巻くリスクについてお話ししていきたいと思います。
定員割れが進むと経営悪化が加速する
安田私立大学の経営上重要なのは授業料収入です。「在籍学生の数」が定員より少なくなればなるほど、経営状態は悪くなるといえます。これは、どなたでも直感的に分かりやすいでしょう。
次に、私立大学は、国から補助金(私立大学等経常費補助金)を受け取っています。
例えば、令和6年度は、早稲田大学がトップで89億円に達しています。これも大学にとって重要な財源です。
そして、この補助金は財政状況や定員充足状況によっては減額や不交付になります。
定員割れの場合、充足率が90%を切ると段階的に減額されますが、3年連続で80%を割ると50%の減額措置になります。また、学部の充足率が50%を割ると当該学部の補助金は不交付となります。
よって、大学は、定員割れが進むと、授業料収入と補助金、どちらも減少してしまうわけです。
塾関係者にとっては、「定員割れ=偏差値低下」というだけの認識がほとんどですが、大学の経営にも大きな影響があるということですね。
安田はい。さらに、奨学金の給付(高等教育の修学支援新制度)対象校から外されます。
これは、家庭の経済状況にかかわらず、意欲ある学生に奨学金を給付するという国の制度です。
例外はありますが、過去3年間の収容定員充足率が、連続して8割未満であれば、奨学金の給付対象機関ではなくなってしまいます。
津守この奨学金は、経済的に恵まれない家庭だけでなく、3人以上の多子世帯や、理工農系の学生にも交付されています。
奨学金が出なくなると、それら優秀な学生が志願しなくなるので、学生の質もより一層低下しやすくなります。
定員割れが進むと偏差値と経営、どちらもも想像以上に打撃ですね。
安田奨学金や補助金は、定員以外の大学の財務状況によっても不交付になりますが、定員確保は大学の財務に直結する大きな問題です。
よって、まずは定員充足率を基準に大学の経営状況を判断すると分かりやすいでしょう。
なお、補助金や奨学金の交付条件は2020年以降に厳格化されています。近年はさらに大学への条件が厳しくなる方向で議論が進んでいます。
これらを通じて、文部科学省は、「お金がない、学生が来ない大学はどんどん退場してね」というメッセージを発しているようにも思えますね。
次回、志望校として「おすすめできない大学」を見分ける方法を伺います。