実は、企画の段階は良くても、そのクオリティで最後まで書き続けることができる人はごくわずか―。
これは、大手出版社の編集者から言われた言葉です。これをきっかけに、私は執筆の「やり方」にこだわりを持つようになりました。
今回は、編集部の企画が通り、印税の話もまとまり、いよいよ書籍を執筆する段階の話です。
さて、みなさんは、1冊の本を仕上げるのに、いったい何字を書いたら良いかご存じですか。
新書で8〜12万字程度といわれています。
まずは、10万字を書くことから目標にしましょう。
「そんなに自分には書けない」と思うかもしれません。
見方を変えましょう。例えば、50テーマを設定したとして、1テーマ2000字(原稿用紙5ページ分)と考えるとどうでしょう。それほど多くはないように感じるのではないでしょうか。
一般的に、2000字というと、丸1日で書ける量です。子どもの頃と違って、大人の今なら何とかなります(笑)。
そもそも、執筆で大事なのは、「継続力」だと私は思っています。
文章というものは、一気には書けないものの、半面、毎日コツコツと続けていれば、いつかは終わります。
今まで、私はそう乗り越えてきました。
一方で、執筆依頼が増えていくと、できないことを「断る」ことも大切になります。これは、執筆の「やり方」がわかってくると見えてきます。
私の場合、次の2つの条件が、断ることを検討するものに該当します。
一つは、自分の知識では書けないような専門的な内容であること。
もう一つは、締切までの時間が短かく、十分な時間が取れないことです。
いずれにしても、自分にできるかどうかという執筆の「力量」を正しく把握して、無理なら断る勇気を持つことも大切なのです。
では、実際に書籍を書き始めてから完成までの流れを説明していきます。
私の場合、いざ書き始めたら、まずは週にどれだけ書くかの目標を立てていきます。
最初はなかなか思うように進まないのですが、形がきまってくると執筆スピードは上がるので、最初から無理な目標は立てないことにしました。
試行錯誤した
「処女作」執筆
処女作であり、私の代表作である「合格文庫一問一答まる覚え化学Ⅰ」(kadokawa)の企画が無事に通過した後、うれしさを噛み締める中、編集者から言われたのは、執筆の締切が3ヶ月後ということでした。
書籍の文量は、90テーマ(180ページ)で約7万字でした。そんな文量は、書いたことも考えたこともなかったので、3ヶ月で書けるだろうと甘く考えていて、今思えば初動対応がしっかりできなかったことが反省点です。
時間というのは、ほんとに、あっという間です。締切が迫る中、時間の確保との格闘でした。
6月は予備校の前期授業で忙しく、当初は「夏休みになったら本気で書くぞ!」と意気込んでいたものの、7、8月は夏期講習準備や授業があって、想像以上にはかどりません。
結果、締切数週間前の8月半ばでも全然原稿が完成していない状態でした。締切をさらに数週間伸ばしてもまだ書けず、さらに年明けになりました。
いずれにしても、執筆を計画的にするには、いかにして時間の確保をするかが重要です。そのために、朝から寝るまでの自分自身の生活リズムの把握は必須といえるでしょう。
辛いことをやり切るには
一つ何か試練の設定も吉
初動時の無計画の反省から,締切日から逆算して,一週間で書く量を決めました。また、執筆をやりきるために自分への試練を与えました。私の場合は、「書き終えるまでお酒は一切飲まない」ことにしました。
当時、私は週6日で授業を担当しており、日曜日もイベントがあるといったスケジュールでした。よって、執筆は、主に自宅に帰ってからの深夜が中心になりました。
時には、ホテルに泊まって空き時間に一生懸命書いたり、休日は、食事時間以外をすべて執筆にあてて、自分自身を追い込みました。それでも、締切の不安から、寝られず、朝まで書いているときさえありました。
そんなハードな毎日でしたから、お酒を飲んでいては文章を書き終えることは不可能だったでしょう。
一方で、脱稿したあとに飲んだお酒は格別の味がしました。
さて、どんなに辛くても、コツコツと書き続ければ,必ず終わりの日がきます。
メールのやり取りがなかった当時、徹夜で書き終えた原稿を直接提出しに行きました。そのあとの開放感といったらたまらなかったです。もちろん、メールで入稿になった今でも変わりませんが…。
次回は、脱稿後から書籍が書店に並ぶまでを取り上げたいと思います。