【受験生の有力ルート「総合型選抜」の序列と特色】 将来性、指導難度…自分に合った「年内入試」は? #東洋経済オンラインhttps://t.co/GCo9JEcvSD
— 東洋経済オンライン (@Toyokeizai) June 18, 2023
コロナ禍の中で急激に進んでいる「年内入試シフト」。その背景は、できるだけ早く合格通知を手に入れたい受験生側と、「定員割れ」を恐れ年内に入学者を確保したい大学側の思惑が一致したこと。この「年内入試シフト」はさらに加速する気配だ。
さて、大学入試のシステムでは、たいがい「西日本で新しいものが生まれ、遅れて数年後に東日本にやってくる」というのがこれまでの受験関係者の間では通説だった。
けれども、今回の「年内入試シフト」のうち、特に総合型選抜は例外だ。今のところ、東日本が先行している。反面、西日本の大学は手間のかかる総合型選抜を嫌い、及び腰であるといえる。しかし、それも過去の話になりつつある。関西の大学でも、総合型選抜の定員枠を広げ、受験生獲得を強化するところが増えてきた。
また、年内入試(総合型選抜や学校推薦型選抜など)は楽勝、と考える受験生や進路指導担当者は意外に多いが、これには注意が必要だ。確かに一般選抜に比べて「受験勉強」の苦労は少ないが、年内入試も「願書」から始まり、多種多様な課題の提出が求められる。
さらに、西日本では公募制入試がメーンで、東日本とは異なり学力試験も課されるケースが大半だ。
指定校制の学校推薦型選抜なら、一般的には「めったに不合格にならない」といわれることが多い。しかし、実際の現場では、志望理由書の提出や小論文、面接試験対策指導などが高校の進路指導担当教員の重荷となっている。
実際、都内の私立高校のある教員は、「生徒が書いた志望理由書はそのまま大学に送れる代物ではありません。一人ひとり内容が異なる書類の添削をして、面接試験でもおかしなことをいわないようフォローしなければならないレベルです。一般選抜で受験してくれた方が指導としては楽なのです」とホンネを語る。
年々、受験生の主体性が求められる選抜方法も高度になりつつある。たとえば、同志社大学商学部のAO入試第一次審査では志望理由書のほか、「ビジネス」をテーマとしたエッセイと、英語による自己アピールの録画データの提出が求められ、ハイレベルな入試だ。
それに対応するためには、英文原稿や、発音のチェックのみならず、服装、髪型、さらには撮影機材の選定や撮影場所の検討まで、教員にかかる「指導」が必要な要素は多い。
こうした年内入試受験生の対応で、高校の現場はすでにパンク状態であるという。
よって、今後、学習塾・予備校は、志望理由書などの作成指導に参入する余地が十分にあるだろう。
一方、労力を惜しまず生徒の希望を可能な限り総合型選抜指導で叶えたいという学校もある。
例えば、首都圏の公立高校教員は、「知的好奇心が強く、コミュニケーションが得意な本校の生徒は総合型選抜との相性が良い。当面は、一般選抜受験も想定しながら、総合型選抜受験者の割合を増やしていくつもりです」と語る。
かつては年内入試弊害論も聞こえたが、受験生の適性をみて、一般選抜、指定校制入試、そして総合型選抜をミックスしていくのが、「年内入試」時代のシン・併願戦略といえそうだ。
さて、総合型選抜、公募制入試の併願戦略だが、厳密にいうと、これらを「専願」限定にしている大学も多く、一般選抜における「併願」とは考え方が異なる、ということに注意が必要だ。
さらに、併願の入試で課される内容に共通点があれば対策がしやすいが、なければ対策がしにくい。
例えば、「プレゼン型」の試験を課す大学同士は併願=天秤にかけやすいが、「プレゼン型」の大学と「論文型」の大学は併願=天秤にかけにくい、ということ。
また、課題作成にかけられる時間も限られるので、実際に出願まで至るのは一校、多くても二校といった格好になるだろう。
大学入学共通テストの有無が併願戦略のカギ
旧七帝大や早慶といった難関大学への合格力獲得をめざしつつ、GMARCHや関関同立など人気の総合私立大学、あるいは規模の大きい理工系私立大学との組み合わせで併願は検討していくことになるだろう。
また、単科の国公立大学と総合私立大学・理工系大学の組み合わせを検討するのも考えられる。ただし、難関国立大学は、高校での学業が優秀、かつ各種活動にも熱心に取り組み、プレゼンも論文もこなしてしまうような「スペシャル受験生」を求める傾向が強く、万人向けする入試だとはいい難い。
よって、弊誌では、シン・併願作戦として、大学入学共通テストを課さない国公立大学と私立大学の組み合わせをおすすめしたい。
「一般選抜重視の生徒は、受験勉強を妨げるものとして『探究』を軽く見る傾向があります。逆に、探究活動に熱心に取り組む生徒は、暗記型の学習を苦手とすることが多いです」と語るのは都内の私立男子校の教員。
このような背景から、国公立大学の入試選抜に合う受験生は案外少ないといえる。なぜなら、「探究」と相性の良い総合型選抜でも、国公立大学では共通テスト受験も求められるからだ。
前出の教員によれば、「探究活動に取り組み、総合型選抜の課題作成を進めて、さらに共通テストの対策も必要になるので、一般の生徒への負担が大きすぎます。なので本校では、筑波大学や地方の国公立大学など、共通テスト受験が不要な大学をめざす生徒が増えています」と現状を語る。
広い分野で年内入試、AO入試に熱心な東北大
そこで本誌の「年内入試ルートマップ」では、受験生に人気があり、さらに共通テストを課さない国公立大学と私立大学の組み合わせを検討した。
上の図を見てほしい。まず、「人文科学系」では、筑波大学が毎年夏に開催する「全国高校『探究』キャンプ」に注目したい。人文社会系の研究者と交流するイベントであるが、受講して条件を満たすと「文学・言語学マイスター」の称号が与えられる仕組みだ。これは、他大学の総合型選抜でもアピールできる材料となろう。
「社会科学系」では早稲田大学社会科学部の「全国自己推薦入試」が面白い。日本全国を7ブロックに分け、各ブロックから5人の合格者が選ばれる地方受験生獲得のための入試となっている。一方、「理工系」の注目株は電気通信大学。新指導要領対応の2025年度入試から総合型選抜の「情報」でコンピュータを使用するCBT方式を導入すると発表している。
なんと、東北大学は、人文科学系、社会科学系、理工系のすべてのマップに登場した。同大は、AO入試による入学者が全体の3割を超え、「最もAO入試に熱心な国立大学」ともいわれる。試験内容は、記述式の学力検査(高難度ではない)のほか、資料が与えられ、それに関する口頭試問が行われた。学生募集要項には「独創性やひらめき」を評価するといった記載もあり、従来型の学力もさることながら、着眼点や柔軟性に優れたハイレベルな学生を集めたいという思いが感じられる。
お茶の水女子大学の「新フンボルト入試」、奈良女子大学の「探究力入試『Q』」、島根大学の「へるん入試」などのように、独自色に富んだ入試で、共通テストを課さない入試も増えつつある。
ひとまず、受験生の適性を見極め、どんな入試の情報を伝えたら良いのか。これは、高校教員や学習塾・予備校、教育関係者の重要な使命といえるだろう。