学研HDは2017 年、山梨県内一番手塾の一角を成す文理学院をグループ化した。それ以前にも、早稲田スクール(熊本)や全教研(福岡)など、全国のエリアトップ塾を次々に傘下に収めている。
他にも、全国に東進衛星予備校を展開するナガセが、関西の有力学習塾の木村塾を買収したのは前回紹介した通り。
こうした「大手企業による地域一番手企業の買収」は、教育業界に限った話ではないだろう。
そもそも、学習塾は地域密着型のビジネスだ。経営の軸となる高校・中学受験は、地域によって、入試形態、進学指導方法、保護者や生徒のニーズが異なる。そのため、地域トップ塾同士による勢力圏争いも、大手によるM&Aと同じくらい活発だ。
何といっても、注目は、九州で圧倒的な指導力と合格実績を誇る英進館だろう。2021年に広島一番手塾の田中学習会を買収。すでに傘下に収めた名門の鯉城学院と合わせ、広島に君臨する鷗州塾に対抗する狙いがあるだろう。
さらに、弊誌1月号でも特集した通り、英進館は東京と大阪の医学部予備校を買収している。社長の筒井氏は、九州大学医学部首席卒業の医師であり、経歴を考えると、医学部受験領域での全国覇権も夢物語ではないかもしれない。
その上をゆくのは、東海地区の覇者、さなるグループだ。同社の名古屋本社の大きな会議室に設置されている各県の責任者のための座席も47席。全国制覇の野望は明らかだろう。
その夢に向かってブレることなく、20年に神奈川大手の中萬学院、22年に東京下町の名門である城北スクールと埼玉県大手のスクール21など名門塾をグループ化している。これまで傘下に入れた九大進学ゼミ、三島進学ゼミナール、啓明館と、数や規模を見ても勢力拡大路線は明らかだ。
学習塾市場は少子化でも「おいしい」ビジネス
学習塾業界内でのM&Aが進む一方で、異業種参入も増加中だ。なんと、20年には、美容大手のヤマノHDが千葉のマンツーマンアカデミーを買収。その後、23年にTBSグループが東京のやる気スイッチグループHDを買収したのも読者の記憶に新しいだろう。
なぜこうしたことが起きるのか。とりわけ現在は少子化が進み、教育産業の市場縮小が懸念されている状況なのにだ。
背景には、子ども一人あたりにかける学業資金の増加がある。家庭に子どもが2人いようが1人だろうが、なるべく多くのお金を教育に費やしてあげたいというのが親心だ。
さらに、最近は受験が低年齢化している。大学受験だけでなく、中学受験や小学校受験にお金をつぎ込む家庭が急増しているのだ。
よって、教育市場は、必ずしも少子化に比例して縮小するわけではない。むしろ大手塾、地域トップ塾、異業種参入が入り乱れ、混乱が起きるだろう。
では、今後学習塾業界はどうなるのか。次号の記事では、塾の生き残りの戦略や、業界再編の予測をしてみたい。