本誌 編集長/西田 浩史
慶應義塾大学、東京慈恵会医科大学、日本医科大学の私立医学部「御三家」が崩壊しつつある―。
本誌の塾・予備校関係者(133塾・270人)への調査で浮かび上がったのは、私立医学部を取り巻く勢力図の大きな変化だ。背景にあるのは学費改革である。
医学部選びでは、偏差値以上に歴史や伝統、学閥の強さが重視される傾向がある。しかし近年は、学費値下げや特待生制度の充実によりその常識が揺らぎ始めている。
かつて私立医学部は高額な学費が大きな壁だった。
ところが近年は大学間競争の激化を背景に、学費引き下げや特待生制度の拡充を進める大学が相次いでいる。その結果、従来なら国公立医学部を第一志望としていた受験生が私立医学部へ流入するようになった。
この図版は、医学部82大学の位置関係を可視化したものだ。縦軸は総合難度を示し、偏差値だけでなく教育関係者の評価(入試の対策のしにくさ、問題の難度など15項目)も加味している。
こうした流れの中で最も存在感を高めているのが順天堂大学と国際医療福祉大学だろう。順天堂大は、医師国家試験で高い合格率を維持するほか、基礎医学研究者養成プログラムなど研究力強化にも注力している。加えて、米国の名門ジョンズ・ホプキンス大学との連携や英語教育の充実など国際化も進む。
さらに複数の附属病院を擁する国内有数の医療ネットワークを持ち、臨床・研究の両面で強みを発揮している。こうした改革を背景に、私立医学部最難関校の一角として評価されている。
一方、国際医療福祉大は英語教育やUSMLEコースなど特色ある教育で評価を高めている。さらに特待奨学生Sでは成績上位者の授業料が実質無料となるため、国公立医学部志望者の併願先としても人気が高い。
なお、近年人気の昭和医科大学は、学費値上げと不適切入試で年齢差別がなくなり、国試合格率が低下中だ。
メルリックス学院代表の佐藤正憲氏はこう話す。「以前は私立医学部のトップ層といえば『慶應・慈恵・日医』でした。しかし現在は順天堂大や国際医療福祉大を第一志望にする受験生も増えています。学費や教育内容、研究環境、国際性などを総合的に見て大学を選ぶ受験生が増えており、従来の序列だけでは説明できなくなっています」。
10年後に伸びる「ポテンシャル医学部」
今回の調査では、現在の難易度だけでなく、「今後10年で大きく評価を高める可能性がある医学部」についても聞いた。塾・予備校関係者が高く評価した大学を分析すると、「世界ランキング」「大学統合」「学費改革」「都市立地」「ブランド復活」の5要素が共通していた。
その代表格が東京科学大学である。東京工業大学と東京医科歯科大学の統合によって誕生した同大学は、理工系と医歯学系を兼ね備えた国内有数の研究大学となった。塾関係者からは「世界レベルの研究者が集まりやすくなった」「今後10年でさらに評価が高まる」といった声が聞かれた。
同様に期待が集まるのが千葉大学だ。旧六医科大学の伝統と総合大学としての研究基盤を持ち、研究力向上への期待が大きい。
一方で、改革による大幅な復活が期待される大学もある。その代表が東京女子医科大学。近年は経営問題などで厳しい状況が続いたが、世界唯一の女子医科大学として築いてきた歴史とブランド力は依然として大きい。6月には学費の220万円の減額も発表するなど、今後評価回復の可能性がある。
同じく、日本大学医学部も関連病院や卒業生ネットワークの規模は大きく、再評価の動きがある。
東海地区では藤田医科大学も注目される。世界大学ランキングで存在感を高めており、研究力強化が評価されている。国立大学では名古屋大学を挙げる声も多い。岐阜大学との連携強化も進み、研究力向上への期待が集まる。
関西では大阪公立大学と関西医科大学が注目されている。前者は統合効果や立地の強み、後者は教育改革によって評価を高めている。
また近年は、私立医学部を取り巻く受験環境そのものも変化している。以前は医師の子どもなど比較的限られた層が中心だったが、学費の引き下げや特待生制度の充実によって、一般的なサラリーマン家庭でも私立医学部を現実的な進学先として検討できるようになった。東京、大阪、福岡などの都市部に立地する医学部へ受験生が集まる傾向が強まっている。
九州では立地の良さで福岡大学を挙げる声も多い。
加えて佐藤氏は「医学部は偏差値だけでなく、研究力、立地、学費、大学改革などによって評価が変わる時代になっています。10年前と現在では勢力図が大きく変わりました。10年後にはさらに違った顔ぶれになっていても不思議ではありません」と話している。
医学部受験は「総合力」の時代へ
医学部受験は、一般的な大学受験とは異なる特徴がある。一般的な学部では推薦入試か一般選抜のどちらかに軸足を置く受験生が多い。しかし医学部では推薦入試と一般選抜の両方を活用しながら合格を目指すケースが一般的だ。
さらに医学部では学力だけでなく人物評価も重視される。面接が課されることも多く、コミュニケーション能力や医師としての適性、医療に対する考え方、地域医療への理解なども評価対象となる。近年は多面的・総合的評価の流れが強まっており、「学力だけで決まる入試」ではなくなりつつある。
実際、本誌取材でも東京女子医科大の推薦入試は、学力だけでなく受験生の人物面や医療への考え方が重視される入試だったと語っている。
かつて医学部受験は比較的固定された序列の中で語られてきた。しかし現在は、学費、研究力、教育内容、大学改革、立地、さらには人物評価まで、多様な要素によって評価が決まる時代になった。

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