TBSが大手個別指導塾の「やる気スイッチグループホールディングス」を昨年買収して世間を驚かせた。学習塾業界は今、M&Aや業務・資本提携など、業界再編の過渡期になりつつある。
TBSのような異業種が塾業界へ新規参入する場合、集団塾の買収が一般的である。それが、個別指導塾であったことは意外だった。これは、通常の塾のシステムに比べ、圧倒的に全国展開しやすいノウハウがあることが理由かもしれない。
さて、関西の塾の業界再編がとりわけ活発だ。地域では、合格実績、経営面で強すぎる「馬渕教室」を運営するウィルウェイの動きに起因しているものと思われる。
まず、大阪から神戸の阪神間で展開する「木村塾」を運営するヒューマレッジが、東進ハイスクールおよび東進衛星予備校を運営するナガセの100%子会社となった。
なんと、買収額は、評価額より高かった。東進衛星予備校の加盟校であったということもあり、ナガセ側からも経営状態の中身が全てガラス張りであったうえ、売上や合格実績などで全国最上位に位置していた優良塾ということが理由だ。
よって、学力中下位層をエリア上位高校に合格させるノウハウは、ナガセグループの高校受験部門でも活用されるに違いない。
いずれにせよ、前述のM&Aの例はごく一部だ。今後は、地域一番塾、特色あるコンテンツを持つ塾は、大手塾に限らず、さまざまな企業から買収の対象になっていく可能性があるだろう。
なお、馬渕は、同エリアの老舗の「若松塾」をグループ化し、関西の名門塾同士のM&Aを成功させている。これは、馬渕教室の「力技」だったという意見もあるが、このような相性の良い東進加盟校同士の資本・業務提携は今後増えていくに違いない。
今後、名門塾同士のびっくりM&Aも
実は、かつてないほど塾業界では優良案件が増えつつある。その理由は塾経営の後継者がいないなどさまざまだが、それを狙う大手企業は、チャンスと見て、M&Aの勢いは増しそうだ。前述した三件とも評価額より高いM&Aで、売った側のオーナーはハッピーリタイヤといえるだろう。売る側は、評価額の高いうちに売って、それを元手に悠々自適のその後を送りたい、そう考えている創業者も多くなっているのかもしれない。
そんな状況の中、かつてない程のびっくりするような優良塾同士のM&Aもあるかもしれない。
今、塾業界では、生成AIによる教育企業「atama+」(アタマプラス)や「Monoxer」(モノグサ)などのコンテンツが注目されているが、塾現場では、まだまだ上手く活用しきれていないケースも多いと聞く。
主にコロナ禍によりデジタル化が一気に加速した弊害が出ているのも理由だが、ここに来て改めて、塾経営とは何か、塾にしかできないことは何か、業界に長く関わってきたものとして積極的に問うていきたい。