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芝浦工大が、学習院大を逆転
理系人気で変わる「SMARCH」

「MARCHに含めるべき大学はどこか」。全国122塾・367人の塾関係者に聞くと、トップは学習院大学ではなく芝浦工業大学だった。支持は81%。2024年を境に「G」と「S」の順位はひっくり返った。文系の物差しで組まれてきた大学群の序列が、理系人気で音を立てて崩れ始めている。
本誌 編集長/西田 浩史(追手門学院大学 客員教授)

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「GMARCH」は文系学部を主体にしてきましたから、もう古い考えだと思うんです。

首都圏の私大を語るとき、誰もが口にしてきたのが「MARCH」だ。明治大学、青山学院大学、立教大学、中央大学、法政大学の5大学。受験生や保護者はもちろん、企業の人事担当者にも通じる、大学選びの共通言語だ。今、この大学群に地殻変動が起きている。

本誌が全国122塾の塾関係者367人に聞き取り調査を行い、「MARCHに含めるべき大学」を尋ねた。1位は芝浦工業大学で81%。長らくMARCHの「6校目」とされてきた学習院大学は73%で2位にとどまった。両者の順位は24年に逆転している。

MARCHに学習院大の「G」を冠した「GMARCH」という呼び方についても聞いた。73%が「使っていない」と答えた。理由として多かったのは、「MARCHは文系のイメージが強く、進路指導では理系の大学が年々必要になっている」という声だ。

学習院大の評価が落ちたわけではない。これからも、全国区の難関大学として君臨するだろう。変わったのは、塾が受験生に示す「併願の地図」のほうだ。文系中心で描かれてきた地図に、理系の受け皿が必要になった。そこに最もはまったのが芝浦工大だった。

現場は「G」ではなく「S」を見ている。芝浦工大の頭文字を加えた「SMARCH」の方が、進路指導の最前線で広がりつつある。

進路指導のプロたちの頭の中で、序列は確実に組み替わっている。

背景にあるのは、入試環境の激変だ。近年の難関私大入試が変化した理由を聞くと、「大学入学共通テストの難化」が88%、「早慶の一般選抜の難化」が80%、「理系人気の再燃」が75%に上った。

注目は理系人気だ。かつて私大の序列は文系学部で決まっていた。法学部、経済学部、商学部の偏差値と知名度が、大学全体の看板をつくってきた。

ところが生成AI、データサイエンス、半導体と、成長産業の主役は軒並み理工系だ。企業の採用意欲も理系人材に集中している。大学を測る物差しが、文系から理系へと持ち替えられつつある。

その流れに真っ先に乗ったのが、理工系大学の芝浦工大だった。大学だけではない。附属の中学・高校も、中学受験や高校受験の世界で存在感を高めている。

「入口」より「出口」で選ぶ時代

芝浦工大を押し上げるもう1つのエンジンが就職だ。

大学通信が公表する「有名企業400社実就職率ランキング」でも、芝浦工大は上位の常連である。受験生や保護者は、入試難易度という「入口」だけでなく、卒業後にどこへ行けるかという「出口」で大学を選ぶようになった。

塾関係者がよく口にするのが「コスパのいい大学」という評価だ。

学費が安いという意味ではない。入試難易度、学べる中身、企業からの評価、就職実績を総合すると、入口に比べて出口が圧倒的に強い。そういう意味である。

ただし、入りやすい大学という意味でもない。

塾関係者からは「標準的な問題が中心だからこそ高得点勝負になり、取りこぼしが許されない」という声が上がる。人気が集まれば競争も激しくなる。芝浦工大はすでに、甘く見ていい大学ではなくなっている。

「10年後に早慶上理に人気・入試難度が接近していると思う大学」を聞くと、芝浦工大は明治大に次ぐ2位に入った。MARCHの盟主・明治大の背中がすでに見えているのだ。入試難度でも、東京理科大学との差を縮めている。

「早慶」「早慶上理」「MARCH」「日東駒専」。受験の世界はこうした大学群で序列を語ってきた。だが、この枠組みには致命的な弱点がある。文系と理系という性格のまったく違う大学を、同じ一本の物差しで並べてしまうことだ。

理工系志望の受験生にとって、偏差値は判断材料の1つに過ぎない。研究設備、大学院への進学、企業との共同研究、メーカーやIT企業への就職実績。見るべきものは他にいくらでもある。

文系学部を軸に組まれた大学群と、受験生の実際の選択との間にズレが生じるのは当然だろう。「GMARCH」離れは、その象徴だ。

塾の進路指導は、すでにそのズレを前提に動いている。

筆者は全国の塾を取材しているが、大学を見る目は確実に多様化している。偏差値だけでなく、立地、就職、専門性、国際性、卒業後のキャリアまで含めて大学を値踏みする。その変化を最も鮮やかに体現しているのが、芝浦工大なのである。

SMARCHという言葉が10年後、MARCHのように誰もが使う呼び名になっているかどうかはわからない。

だが、本質は呼び名ではない。

盤石に見えた大学の序列も、産業構造と入試制度、そして受験生の価値観が変われば、あっけなく動く。看板にあぐらをかいてきた大学ほど、足元をすくわれかねない。かつて大学の人気を動かしたのが法学部や経済学部だったとすれば、これからの序列を動かすのは理工系と情報系だ。

そこには塾の経営判断も絡む。理系志望の生徒を芝浦工大に合格させれば、「MARCH級」の実績として打ち出せ、生徒募集の武器になる。SMARCHは、塾にとって「売れる」大学群でもあるのだ。

「MARCH」という5文字に「S」が加わるのか。

芝浦工大の浮上は、1大学の人気上昇などではない。首都圏私大の勢力図が塗り替わり始めた号砲なのである。

ルートマップマガジン社 取締役/雑誌編集局 ルートマップマガジン編集部 編集長
追手門学院大学客員教授、教育ジャーナリスト、『大学ジャーナル』編集部 編集委員、アロー教育総合研究所 客員研究員。2016年 ダイヤモンド社『週刊ダイヤモンド』記者(学校・教育産業担当)、他学習塾業界誌の私塾界『月刊私塾界』、塾と教育社『月刊塾と教育』記者、追手門学院大学アサーティブ研究センター客員研究員を経て20年から現職。『現代ビジネス』『週刊朝日』『サンデー毎日』『週刊エコノミスト』『週刊東洋経済』『東洋経済オンライン』『週刊ダイヤモンド』『ダイヤモンド・オンライン』など教育関連記事の寄稿、コメント多数。全国4,000塾、予備校(関係者20,000人)の取材達成(2022年11月現在)。
著者に『医学部&医者』『関関同立』『最強の高校』(すべて週刊ダイヤモンド 特集BOOKS ダイヤモンド社)など。放送大学大学院文化科学研究科修士課程在籍中
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