本誌 編集長/西田 浩史(追手門学院大学 客員教授)
「早慶上智」という私立御三家―。近年はここに東京理科大学が入って〝早慶上理〟などさまざま言われるが、実際の所どうなのか。図1を見てほしい。本誌が全国319塾721人を対象に実施した独自調査では「早慶上智」「早慶」といった大学群の使われ方が圧倒的であった。
一方、一時話題になったSMART(スマート。Sは上智大学)、早慶上智ICU、早慶上理は10%前後で、塾ではあまり使われていない。
そんな中、早稲田大学を巡る受験地図が変わり始めている。
東京大学との併願者が増え、一橋大学や東京科学大学などの難関国立大学との距離も縮まりつつある。早稲田大は〝超難化〟し、最上位層の中で頭一つ抜けた位置へと動き始めている。では、早稲田大が抜けた後を埋めるのはどこなのか。
「早稲田」の隙を埋めるのはどこか
本誌が実施した独自調査では、その候補として頻繁に名前が挙がるようになったのが上智大だった。いわば「ポスト早稲田」である。その兆候は、大学のダブル合格時の進学選択にも表れている。
独自調査では、北海道大学文学部と上智大外国語学部の双方に合格した場合、2020年には上智大に進学を指導する割合は0%だった。それが26年には上智大が9%まで上昇した(図3参照)。
これは文系だけの現象ではない。北海道大工学部と上智大理工学部では、20年に上智大に進学を指導するとの回答は0%だったが、25年には7%となり、26年も7%となった。
九州大学でも同様の変化が起きている。九州大文学部と上智大文学部では、かつて0%だった上智大が26年には7%に上昇。九州大共創学部と上智大法学部の比較では、上智大を選ぶとの回答が26年にはなんと、9%に達した。
数字そのものだけを見れば、まだ数%にすぎない。しかし重要なのは、これまで「旧帝大を選んで当然」と考えられていた最上位層の一角で、上智大を選択肢に入れる動きが現れていることだ。
そこで本誌では、「今後、上智大を本命とする受験生が増えると思うか」についても尋ねた。その結果、増えるとみる回答は文系で約7割。さらに理系では77%に達した(図4参照)。
なぜ今、上智大なのか。
理由の一つには国公立大学入試の負担の大きさがある。共通テストを含め、多数の科目を準備しなければならない国公立大に対し、「そこまでの負担をかけて旧帝大を目指すのか」というコストパフォーマンスを意識する受験生が出てきた。
とりわけ東京志向が強まる中、「東大・京大でなければ、地方の旧帝大ではなく東京の早稲田大や上智大へ」という選択が、以前より現実味を帯びている。
そこに早稲田大の難化が重なる。早稲田大が最上位国立大に近づけば、そのすぐ下に新しい空間が生まれる。そのポジションに上智大が入り始めているのである(図2参照)。
ここで一つの疑問が出てくる。上智大より、慶應義塾大学となりそうにも思える。ただ、慶應義塾大は国公立大との併願のしにくさ、試験のクセの強さで独自対策も必要で安易に併願になりにくいというのがその理由のようだ。
東大改革で見直される「上智理系」
さらに注目したいのが理系だ。受験生が上智大を再評価する理由の一つが、四谷キャンパスの立地である。文系だけでなく理工学部も東京都心の四谷で学ぶことができる。
「上智大=国際系・外国語系」という従来のイメージとは異なり、理系を含めて都心で大学生活を完結できる点が改めて意識され始めている。
加えて、上智大は理系分野そのものを拡張している。27年4月には理工学部に「デジタルグリーンテクノロジー学科」を新設する。データサイエンスとデジタル技術を基盤に、電気、機械、生物、化学などを横断する学科で、授業から論文執筆まですべて英語。入学定員50人のうち約半数を留学生とする計画だ。東大の新学部によって、英語と理系ブームに乗って、上智大理系学部も人気になるといった仕組みだ。
よって、東大の入試・教育改革などによって最上位層の大学選択が揺れる中で、「では、東京の理系で、特に英語、海外トップ大学院留学などを考えると、どこか」と大学を見直したとき、上智大が再発見されている側面がある(図6参照)。
上智大理工学部は、決して巨大な理系学部ではない。しかし、少人数教育、都心立地、国際性、文理融合という特徴を組み合わせてみると、他の大規模私大とは異なるポジションが見えてくる。
そして最近、塾関係者への取材で気になる変化がある。かつて上智大は、早慶志望者が併願する大学、あるいは国公立大志望者が押さえる私立大学という見方をされることが少なくなかった。
ところが現在は、単純な「早慶の次」ではなく、最初から上智大を積極的に選択する受験生が現れている。
特に海外トップ大学・大学院への進学を視野に入れる受験生にとって、上智大の国際教育は大きな意味を持つ。単に「大学4年間をどこで過ごすか」ではなく、「その先にどこへ行けるか」で大学を選ぶ受験生が増えれば、上智大の評価軸は従来とは変わってくる。
つまり、偏差値表の序列だけでは説明できない大学選択が始まっているのである(図7参照)。
いずれにせよ、早稲田大の難化、国公立大入試の負担感、東京志向、都心という立地、少人数教育、国際性、そして理系教育の拡張。一つ一つは別々の変化に見える。しかし、それらが同時に重なった結果、「ポスト早稲田」という新しいポジションに、上智大が入り始めた。
そして、その変化を最も象徴しているのが、「早慶に届かなかったから上智大」ではなく、「上智大だからこそ受ける」というこだわり‘‘受験層の登場’’なのかもしれない。


