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塾長百話(第8回) チョーク一本

某日、たまたま私塾ネット(全日本私塾教育ネットワーク・田中宏道理事長)の広報誌85号を見ていたら、第21回研修大会でのSTEP龍井郷二会長の講演が紹介されていた。ご承知のようにSTEPは、神奈川県下の地元密着型の有力塾で、会長の講演は実に具体的、示唆に富んだものだった。同塾の最大の特徴は、「絞り込み」にあり、神奈川県下に限定。公立の中高生に的を絞り、集団指導のライブ授業に専念、これにより知識の蓄積と高品質な授業の提供が可能になるという。

ところで、ライブ授業で思い出したのが、「全国模擬授業大会」である。今年で17回を教える同大会のキャッチフレーズは「チョーク一本で教育改革を」。主催は栃木県の開倫塾、名古屋大会は野田塾が開催している。開倫塾の塾長林明夫氏は「教育の成果は、本人の自覚と先生の力量の向上こそ大きな柱になる」と、その開催趣旨を語る。当然、塾の講師の力量はつねに厳しく問われ、日々の研鑽がとても大切だ。

2005年に始まった同大会。各塾からノミネートされた講師は予選で一人15分の授業を行い、教室の生徒として座った5、6名の審査員が採点する。そして、各科の予選で優勝した講師は本選に進出、大講堂で再度授業を行い、全教科の審査員全員(30名以上)による採点で最優秀賞者が決められる。おこがましいが、かつて筆者は大会初期の頃から審査員として参加させていただいた。実際に授業を受けてみると15分はあっという間で、計算された話術、その熱量は圧倒的で感動的ですらある。

この数年、学校教育を語る研究者、一部の教師が、一斉授業に根本的な疑問を投げかけている。いわく明治初期から何も変わらない。同じ内容を一斉に教え、答えも決まっていることを勉強する。この硬直したシステムが約30万人の不登校生を生み出している、一人ひとりが自分のペースで学べる仕組みに転換すべきだと。実際に一部の学校では「探究学習」のなかで「個別の学び」を実践している。大学入試の総合型選抜にも有効だろうし、自主的学びへの選択は貴重な意見だ。

もちろんこのような意見に反対するつもりはない。だが、塾舎の教育現場では、まだまだ一斉授業のニーズが高く、それが実情だ。授業力に自信を持つ塾は全国に数多くある。我が塾の講師たちは地元でいちばん、と標榜するのであれば、なおさら是非一度ご自慢の先生方を、この大会に参加させてみてはいかがだろうか。

片倉剛
教育コラムニスト
本誌専属の教育コラムニスト。学習塾業界、取材歴35年。学習塾業界雑誌 私塾界『月刊私塾界』編集室室長、塾と教育社『月刊塾と教育』執行役員を経て現職。前職の編集者時代では『学習塾白書』の創刊スタッフ、「地方塾活性化セミナー」をプロデュース。全国の学習塾、学校の降盛を見続けた。他、『成功する個別指導教室』(塾と教育社)の責任編集。法政大学文学部日本文学科卒業
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