お茶の水女子大学共創工学部、広島大学工学部、東京学芸大学、新潟大学工学部などで、2025年度の「大学入学共通テスト」(以下、共通テスト)から初めて「情報Ⅰ」の受験が必須化される。
塾の関係者が最も気になるその初年度の共通テストの配点率は、なんと全体の点数のうち10〜20%に達する大学が相次ぐ見込みだ。
入試難度(偏差値)の頂点に君臨する旧七帝国大学(東京大学、京都大学、大阪大学、名古屋大学、東北大学、九州大学、北海道大学)の一角、北海道大では、学校現場での「情報科目」の指導状況を考慮し、初年度に限って配慮するという理由で、ひとまず、「配点をゼロにする」の方針を固めた。徳島大学、香川大学なども同様である。なお、これらの大学は初年度以降では、配点を設定するとしている。
いずれにせよ、各大学の動きを見ると、「入試の合否に影響するので、無視できない状況になった」(大阪市・大手塾関係者)といえる。
「情報I」重視の大学の共通点は、共通テストの比重が高めであること。茨城大学工学部、富山大学工学部、高知工科大学など中堅・下位の地方国公立大学に多い。
将来、これらの国公立大学は、配点率をさらに上げてくる可能性も否定できない。よって、合格のハードルも上がる見込みだ。
今後、これを避けたい層が集中するのは、大都市圏の私立大学である。主に、日東駒専、産近甲龍、愛知大学、名城大学、中京大学、福岡大学、北海学園大学、東北学院大学、広島修道大学、松山大学などの有力中堅大学になるだろう。これら大学の難度も上がりそうだ。
さて、具体的な各国公立大学の25年度共通テストの「情報Ⅰ」の配点率にいこう。
24年1月時点で、「情報Ⅰ」が必須なのは、国立大学で95.2%、公立大学で、42.7%と過半数に及ぶ。その中で、配点率が10%以上と高い大学を難度順に並べたのが下図である。
お茶の水女子大、広島大、東京学芸大、新潟大など有力な国立大学が並ぶ。
なんと、広島大、広島市立大学などは20%超え。これら大学の志願者は、早慶上理、GMARCH、関関同立といった私立大学に流れそうだ。
国公立大学からの受験生離れはそれだけにとどまらない。
24年度の入試では、文部科学省の「大学・高専機能強化支援事業」で、情報系学部の新設や入学定員の増加が相次いだ。これらは、主に国公立大学が主体で進められている。
まず、新設は、神戸大学工学部、千葉大学情報・データサイエンス学部、熊本大学情報融合学環、宇都宮大学データサイエンス経営学部など。
一方で、定員は40人以上で、大阪大工学部、基礎工学部、東北大工学部機械知能・航空工、電気情報物理工、建築・社会環境工、北海道大工学部情報エレクトロニクス学科、東京工業大学(24年10月から東京医科歯科大学と統合して東京科学大学)情報理工学院、筑波大学理工学群、横浜国立大学理工学部、電気通信大学情報理工学域Ⅰ類(情報系)電気情報通信、広島大工学部、金沢大学理工学域電子情報通信学類、融合学域スマート創成科学類、岡山大学工学部など。
これらは現状、どこも高倍率・大学入試難度も上昇傾向で厳しい入試になっている。
よって、共通テストの「情報Ⅰ」の必須化による科目増で受験生の負担が増える影響で、大都市圏の「大規模の私立大学志向化」が進みそうだ。
そうなれば、これら国公立大学の入試難度は今より確実に下がる。今より入りやすい穴場大学・学部が今後出るかもしれない。
こうした予測を踏まえつつ、塾現場では、「小学校低学年」の段階から、「情報科目」の早めの意識づけと、受験対策をどう行うべきかという議論が始まっている。
塾関係者の注目は
「プログラミング」
では、実際に塾現場ではどのような動きが始まりつつあるのか。その突破口として注目されているのが、「プログラミング」だ。
弊誌の全国122塾への調査(23年1月から24年5月)で、「プログラミング」に興味があると答えた塾は82%に達した。
なんと、4年前の調査と比べて40%も上昇している。これら興味がある関係者のうち、70%は英語や数学などの主要科目と同様、塾のカリキュラムの軸に位置付けたい、と「プログラミング」科目の導入を考えているというわけだ。
これはどういうことか。共通テスト「情報Ⅰ」を攻略するための超基礎のコンテンツとして、塾関係者が「プログラミング」の講座に期待しているということだ。
よって、塾が「プログラミング」科目を新規で始めるメリットは、主に3つ考えられそうだ。
まず、小学部(中学受験生)から高校部(大学受験生)まで一貫して通塾してもらうためのフックになること。
もう一つは、既存の小・中学部のカリキュラムと相性が良く、学びの相乗効果が期待できること。これは、「プログラミング」を学習することで磨かれる「探究力」や「思考力」が、中学、高校、大学入試で出題が多くなりつつある科目横断型の融合問題や、長文読解などに役立つからだ。
さらに、「プログラミング」は、話したり、文章の読み書きに必要な「論理力」の養成にもつながる。例えば、これは、国公立大学2次試験や難関高校の記述式の問題、さらに推薦入試の小論文や志望理由書対策にもプラスになる。
このように、「プログラミング」の学習は、様々な入試対策と密接に関係するのである。
「ベネッセの講座」と
「QUREO」二強か
もともと、「プログラミング」サービスの主なブランドといえば、小学生向けの「QUREO」、そして「プロクラ」が有名だ。
中学、高校向けだと、「Life is Tech!」の成長率が著しい。主に自治体経由の学校導入で会員数を伸ばしている。
そこに新たに業界に広がりそうなのが、ベネッセコーポレーション(以下、ベネッセ)の「プログラミング講座」(塾向け)だ。
弊誌が業界関係者に取材したところ、今後は、小学校向けプログラミングでは、「QUREO」に加え、「ベネッセ」の2強体制になる可能性が高いという。
その「プログラミング講座」とは、もともと塾関係者も馴染みのある「進研ゼミ」(小学講座)向けに開発されたものである。家庭用学習教材としては、21年春の開講以来、すでに約5万人の受講実績を誇っている。
とはいえ、なぜここまで塾業界関係者から注目されているのか。
その理由は、まずなんといっても、入試や教育に強い企業「ベネッセ」が開発したこと。関係者が意識しているのは、これによる圧倒的な質の担保だ。
特に、55年の歴史を持つ「進研ゼミ」が積み重ねたノウハウへの信頼は高い。塾が指導経験を持たない「プログラミング」や「情報Ⅰ」といった科目においても、塾生が自学自習でしっかり学べるコンテンツをベネッセが提供してくれるなら、試してみたいと考える関係者が多いのは自然な流れだ。
さらに、講座の内容以外の入試の情報収集力にも強いという点。
特に情報系の分野では、国の主導で様々な改革が行われているが、ベネッセなら、文部科学省や学校現場の最新動向(最新の大学、高校、中学入試、新学習指導要領、DXハイスクール事業など)の把握はお手のものだろう。
万が一、国が情報教育の方針変更をした場合でも、即座にカリキュラムの中に反映、訂正、補足できる企業体制も魅力だ。
現在、入試に関連する情報教育は大学入試にとどまっているが、これが将来、高校・中学入試にも関わってくることもありうる。
それらにも対応できる万全の体制を持つベネッセが、計画的に塾向けのサービスを開発したとなれば、関係者も注目しない理由はないだろう。
「プログラミング」で
押さえるべき「4つの力」
さて、その注目のベネッセのカリキュラムは、25年度新課程の共通テスト「情報Ⅰ」が押さえるべき4つの力(情報社会、情報デザイン、プログラミング、データ活用)はもちろん、大学入試における総合型・学校推薦型選抜に必要な「探究力」、さらにはコミュニケーション力、プレゼンテーション力などまで身につくようになっている。
単なる大学入試にとどまらず、「学問」として社会まで幅広く学べる内容が強みだ。
なお、実際の講座は、パソコンを使った学習で、インプット中心の「情報レッスン」と、Scratch※を使ったアウトプット中心の「プログラミングレッスン」から構成される。
レッスンは「導入→ワーク→確認問題」の3ステップで、いずれも10~15分程度で取り組めるように設計されており、塾の事情に合わせて様々なカスタマイズが可能になっている。
このあたりは、通信教育「進研ゼミ」で半世紀にわたり培った経験や技術をもとに、子どもの学びやすさが、とことんまで追求されている。
さらに、今まで「プログラミング」の教材では課題だった学習進捗の可視化も実現した。
これは、独自の「塾支援システム」(受講管理画面)によるもので、学習進捗アラート機能やブックマーク機能など、声かけが必要な生徒が一目でわかる工夫もこらされている。
ここまでできるのは、小学校だけではなく、中学、高校の通信教育の草分け企業としてノウハウのあるベネッセならではの強みといえるだろう。
さらに、生徒や保護者との面談時は、個人領域ごとの正答率のデータから得意領域などを確認することも可能だ。
これらもセットで、初期費用、契約期間、最低利用料金設定がなく、ノーリスクという「事業展開」のしやすさも、ベネッセの「プログラミング講座」が注目されている理由だ。
いずれにせよ共通テスト「情報I」の必須化で、これから「プログラミング」関連のサービスはますます加熱していくことが予想される。
いずれにせよ、「QUREO」とベネッセの「プログラミング講座」(塾向け)が一歩リードしていくといえるだろう。