本誌編集長/西田 浩史 データ分析/井上 孟
DX、AIなど近年出現した学問領域を扱う学部・学科の相次ぐ新設、年内入試(学校推薦型・総合型選抜)の拡大などにより、「大学選びそのものの変化が著しい」と話す塾関係者が増えた。
本誌では、2024年1月から25年8月まで、1年以上にわたり独自に調査を行い、その変化を探った。
まず、8ページからの三つの図を見ていただきたい。これを見れば、大学群別に、進路指導現場と、志望校決定の際に重視しているキーワードが一目瞭然だろう。
これらは、全国127塾の進路指導関係者に、大学選びで重要なキーワードを挙げてもらい、それを、「塾が進路指導でとりわけ重視しているもの」と、「受験生が受験校決定の際に重視しているもの」を上から順に並べたものである。
そして、同じ調査を24、25年の2回にわたって実施し、その重要度の変化もマッピングした。
なお、精度を上げるため、重要度調査は大学の入試難度により三つに分けて行った。早慶上理(早稲田大学、慶應義塾大学、上智大学、東京理科大学)、GMARCH(学習院大学、明治大学、青山学院大学、立教大学、中央大学、法政大学)、関関同立(関西大学、関西学院大学、同志社大学、立命館大学)を筆頭に、日東駒専(日本大学、東洋大学、駒澤大学、専修大学)、産近甲龍(京都産業大学、近畿大学、甲南大学、龍谷大学)、そして、その他の地元小規模大学を中心とする私立大学群である。
これら三つの図を見ると、総じて「偏差値」「就職実績」などの数値データを見て受験校を決定する割合が減っている。
とりわけ、「偏差値」に関しては、「近年は入試の合否判定が生徒の学力の実態と乖離しすぎて当てにならない」「参考程度にしか利用していない」という意見が多かった。
面白いのは、多くの大学が広報で重視している「就職実績」は、「大学同士で統一した比較ができない指標だからあくまで参考程度」とする意見。実際、この1年だけでも重要度が結構な割合で減少している。
対して、重視する比率が爆増しているのが、「立地の利便性」だ。大学の入試難度に関係なく上昇している。「駅近」「ワンキャンパス(学部・学年割れをしていない)」「都心」という条件だった。
データを見ると、大学の入試難度が下がるほど立地に関してシビアに評価していることが分かるだろう。
これらキーワードは、10年後には重要度がより強くなる、という見方をする関係者も多い。
その他を見ていくと、早慶上理など難関大学では、「自宅からの近さ」の重要度が低下しつつある。これは、家から遠くても受験する者が増えたというよりは、共通テストがある地元国立大学を避け、これら難関私立大学を選択する層が増えた結果といえるようだ。
そして、GMARCH、関関同立以下では、年内入試を行っていることも重要な指標として高まりつつある。
10年後の大学選びで重視されるものとは
年内入試が増え、偏差値の重要度が低下する中で、新たな指標も台頭してきている。
それが、「10年後に重視されるであろうキーワード群」である。
中でも急激に上がっている「有名な教授や研究室の存在」は、年内入試で大学の中身まで調べなければならなくなった影響だろう。中堅大学とその他の大学では、有名教授がいるだけで受験校にするパターンも増えている。
そして、日東駒専など中堅校では、大学の中身へのこだわりが他の大学群よりは少ないせいか、「学部、学科の充実度」を重視する割合が増えた。武蔵野大学、武庫川女子大学、京都橘大学、関東学院大学、麗澤大学、常葉大学などの、より大規模で、多くの学問がそろっている大学へ目が向けられはじめている。
なお、塾の進路指導で「入試問題などの出題傾向の分かりやすさ」の重要度が下落しているのは、年内入試の問題・受験方法に詳しくない人が増えた塾側の事情だ。
また、「留学実績やカリキュラム」の伸びから、人気低迷中の国際・外国語系学部の人気は復活傾向だと話す関係者もいる。
いずれにせよ、これからの大学選びは、年内入試の人気上昇や、新しい試験方式の導入などで受験生の選択肢が増え、それに伴い、「長期的な視野」「詳細な視点」がより強く求められるようになりそうだ。
この内容を参考に、日々の塾現場での進路指導や塾の職員の研修などに生かしてもらえれば本望だ。