著者は長年学習塾業界に携わり、全国の多くの塾長へのインタビューから、その教育哲学に感化されてきた。ここでは、彼ら塾長や、あまたの教育改革者たちの発言を紹介。ひとりひとりの、学びの先の進路に思いを馳せたい。
取材で関西方面に出向くと、京都の常宿に泊まる。高辻通りにあるホテルで、フロントの後ろに「敬天愛人」と書かれた扁額がある。西郷隆盛が信条にしていたことばだが、京セラの社是でもある。そう、このホテルは京セラ100%出資のホテルなのだ。一昨年亡くなった稲盛和夫氏の姿を、昼どきのレストランで見かけたこともある。
稲盛和夫氏といえば「盛和塾」。若手経営者向けの勉強会で、全国で塾生数何万ともいわれ、我が業界でも何人もの人が塾生だと聞いたことがある。稲盛氏の著作で最も印象に残っているのは「利他人は人のために生きる」という言葉だ。経営の最終目標も「人のため」で、生きる意味もそこにある。
実質賃金も下がり続け、こどもの7人に1人は貧困という。このことを、心ある多くの塾長は知っているはずだ。毎日自塾に通う生徒のことで手一杯とはいうものの、ときに彼等のことを考え、心が疼いている。その子たちを何とか救えないものだろうか、と。
この国はおかしい。少子化対策だといって子育て家庭に金をばらまくが、なんで対処療法しかできないのか。非正規では30代40代が結婚すらできない。また不登校の小中学生は24万5,000人。うち36.3%はフリースクールや教育支援センターなどの支援を得られていない。一因に経費だ。フリースクール入会金53,000円、会費月に33,000円。4割近くはそれすら払えない。
17年に施行された教育機会確保法には、国や自治体が不登校の子どもを支援することを明記している。
さて本当に塾にできることはないのだろうか――