2025.3.8講談社『週刊現代』2025年3月8日号『「SNS」でゆがむ世界』に弊社取締役の西田がコメント提供しました。
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「クリスマスまでに合格」が当たり前?
年内学力入試「元年」到来

文科省と大学の思惑が錯綜する「総合型選抜」の選抜内容。目まぐるしく変わるその最前線をレポートする

2026年度入試は「年内学力入試『元年』」になったといえるだろう。

2025年6月3日、文部科学省から国公私立大学長に通知された「大学入学者選抜実施要項」(以下、実施要項)。この実施要項により、「2月1日よりも前に学力テストを実施すること」が正式に認められたのだ。

発端は、昨年の25年度入試だった。東洋大学が学校推薦型選抜(公募制)で学力テストを実施することを発表。これに、大東文化大学をはじめとする有力大学が追随し、大学入試をめぐる状況が一変した。

この年内学力入試とは、もともと近畿圏では約40年前から定番化している上、東日本でも導入している大学がある。だが、東洋大のような首都圏の大規模有名校が本格的に導入したのは初となる。これで、日本の大学入試の姿が大きく変わることになる、と話題になった。

実際、昨年度の東洋大の年内学力入試の志願者数は約2万人に上った。大東文化大や帝京大学、共立女子大学なども、志願者獲得に成功している。

このことから、年内学力入試は受験生が待ち望んでいた入試であるといえる。

多くの大学も、この入試は歓迎の方向だ。なぜなら、一定の学力を持った学生を、他大学に奪われる前に早期に囲い込むことができるからだ。従来の年内入試には学力テストがなく、年明けまで受験勉強を続けた学生と比較すると、入学者の学力不足が否めなかったのだ。

ついに文科省が年内学力入試を容認

だが、そんな状況に文部科学省は「待った」をかけた。2月1日より前に学力テストを行うのは、実施要項に「違反している」というのだ。年末には同省が東洋大と大東文化大を呼び出し要項順守を求めるよう指導を行っている。

確かに、実施要項には、学校推薦型選抜を含め、学力試験の期日は「2月1日から3月25日までの間」と明記されている。だが、それなら、近畿圏の大学や、1月下旬に「フライング」で一般選抜を行っている大学をなぜ今まで見逃していたのかと不満が出る。

こうして、手を振り上げた文部科学省と、理不尽な要求を突きつけられた大学。その間で悶々とした状態がしばらく続いた。

事態が動いたのは今年3月だ。実施要項を協議する「大学入学者選抜協議会」で年内に学力テストを行うことを容認。調査書や推薦書に加え、小論文や面接、実技検査など多面的評価を組み合わせる、という条件付きで実施を認める方針を示した。

具体的には、2月1日よりも前に学力テストを実施する場合には、調査書等の出願書類に加え、「小論文・面接・実技検査等」または「志望理由書や学修計画書など志願者本人が記載する資料」と必ず組み合わせて丁寧に評価しなければならない、とある。「必ず組み合わせる」ことを念押しした格好だ。

同省は6月3日付けの通知で、年内学力入試の実施を発表している大学に対し、この条件の再確認を求めている。これを受け、一部の大学では、入試内容の修正が必要となっている。

一方、近畿圏の大学は、文部科学省の動きを見つつ、今年の選抜方法を模索する状況となっている(6月上旬現在)。今後の動きは要注目だ。

いずれにしても、26年度入試の受験生は、必ず入試要項など大学公式の情報媒体で最新の入試情報の確認をする必要がある。4月以前の情報をうのみにするのは禁物である。

年内学力入試による「大学サバイバル時代」に突入

さて、年内学力入試の本格スタートで、大学受験がどのように変わっていくのか概観してみよう。

まず、近畿圏では、年内学力入試で2校程度を受験し、合格を手にした上で、年明けに難度の高い大学の一般選抜を受験するスタイルが定着している。関東圏でもこれが今後の大学受験のスタンダードになっていくだろう。

大学ヒエラルキーに当てはめると、GMARCH(学習院大学、明治大学、青山学院大学、立教大学、中央大学、法政大学)・関関同立(関西大学、関西学院大学、同志社大学、立命館大学)以上の「難関大学」については年内学力入試の導入はない。

今年は、日東駒専(日本大学、東洋大学、駒澤大学、専修大学)のうち、東洋大を除く「日駒専」のいずれかが導入することで、「中堅大学」の入試の主戦場は「年内」となるだろう。

これに引きずられるように、「中堅大学」未満の大学は、「年内全入」とならざるを得なくなる。受験生の大半が年内、つまりクリスマスまでになんらかの合格通知を手にしているという構図だ。

18歳人口はここ3年間が減少の「踊り場」で、その後、下落し始める。大学は、自らの立ち位置を決める3年間といえるだろう。

受験生の「選抜」ができる大学となるのか、「全入」を受けざるを得ない大学となるのか。年内学力入試「元年」。生き残りをかけた大学のサバイバル競争も、いよいよ正念場だ。

田嶋 裕
ルートマップマガジン 副編集長
アロー教育総合研究所 所長、 城西大学外部評価委員。大学入試に関する調査・分析を行う。新聞・教育専門誌での記事執筆、イベント講演多数。
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