首都圏の私立医学部入試に異変が起きています。2026年度入試で志願者数が大幅に減少しました。
前年比で見ると、北里大学▲38.0%、東京医科大学▲7.2%、杏林大学▲14.9%、東海大学▲22.0%。
これまで安定した人気を誇ってきた首都圏・首都圏近郊の医学部が軒並み志願者を減らしました。医学部人気は堅調とされてきましたし、特に中部以西では微増傾向との予測もありました。
しかし、首都圏では明らかな変調が起きています。
筆者はこれまで医学部受験をテーマに書籍を複数出版し、全国の医学部関係者を取材してきましたが、今回の志願者減少はなかなかない水準です。私としても正直なところ予想しにくいものでした。
背景には、医師を取り巻く構造的な変化があります。25年11月、財務省は財政制度等審議会において、医学部定員の適正化、国家試験合格率による医師数コントロール、さらには開業医の給与水準の適正化にまで言及しました。
国家財政の観点から、医師数そのものを調整対象とする姿勢を示したのです。
仮に現行の医学部定員を維持すれば、50年には「受験人口の85人に1人」が医学部へ進学する計算になります。
医師数が過剰となれば、医療保険制度の持続可能性にも影響が及びます。医療はもはや聖域ではなくなりつつあります。
さらに象徴的だったのが、山梨県の地域枠訴訟です。
医学部地域枠学生に総額936万円を貸与し、医師免許取得後9年間の県内勤務を条件とする制度について、違約金842万円は消費者契約法に反するとして、当該条項の無効を求めて「消費者機構日本(COJ)」が山梨県を相手に提訴していました。
そして、26年1月21日、甲府地裁はCOJの主張を認め、違約金条項を無効とする一審判決を言い渡しました。
この判決は、医師確保という公益目的があったとしても、過度な違約金で縛ることは許されないという司法の姿勢を示したものです。医師養成制度もまた、一般法の枠内で再設計を迫られているといえます。
加えて、「公立病院の70%以上が赤字経営」という報道も続きました。受験生の目にこうした情報が入らないはずがありません。厳しい競争を経て医師になったとしても、労務管理は厳格化し、財政は抑制方向へ向かっています。
かつて語られた「医師免許さえ取れれば安泰」という物語は、徐々に現実味を失いつつあります。
医師免許=安泰の終焉の時代に突入か
ただし、医師という職業の本質は変わりません。
裁判官と並び、人の生命に直接影響を及ぼす極めて重い責任を担う職業です。その社会的意義が揺らぐことはありません。
だからこそ、これから医学部を目指す受験生に問われるのは「安定」ではなく「使命」です。収入や肩書きだけでなく、長期的に社会へどう貢献するのかという覚悟が求められています。
今回の志願者減少は一過性の現象かもしれません。しかし、制度・財政・司法・経営という複数の側面から見れば、「制度に守られた自動的安定」という時代が揺らぎ始めていることは確かです。
医学部入試の激震は、その兆候に過ぎない可能性があります。かつて「難関国家資格」は安定の象徴でした。弁護士、公認会計士、薬剤師も同様に人気を集めた時期があります。しかし制度改正や合格者増加により、市場環境は大きく変化しました。
医師だけが例外であり続ける保証はありません。国家資格といえども、社会構造の中で位置づけが変われば評価も変わります。
資格そのものよりも、「何をする医師か」が問われる時代に入りつつあります。
