約800大学ある中で、医学部医学科を設置するのは、防衛医科大学校を含めたった82校のみである。
少子化で、志願者数が減少するとはいえ、これら医学部への合格を目指す受験生は変わらず増加傾向だ。もともと難度はバブル状態であったが、ここ10年でますますそれが顕著になったといえる。
左図を見てほしい。私立大医学部合格に必要な学力とは、最低でも早慶の理工系学部かMARCH(明治大、青山学院大、立教大、中央大、法政大)、関関同立(関西大、関西学院大、同志社大、立命館大)のトップ学部に合格可能な学力が必要だといわれる。
国公立大医学部に至っては、「最低でも東京大、京都大、東京工業大の理工系学部か、その他の旧帝大のトップ学部」に合格する学力がなければ、医学部入試を突破できない。
ちなみに、人気、入試の難度、倍率で今最も勢いがあるのは順天堂大だ。慶應義塾大、東京慈恵会医科大、日本医科大の私立大医学部御三家を猛追中で、大手予備校の偏差値ランキングでも東京慈恵会医科大、日本医科大と同ランクに並んでいる。
注目は、2016年4月、17年4月に新設された東北医科薬科大と国際医療福祉大だ。一気に医学部序列の上位に食い込んできた。そもそも医学部は歴史が長いほど格式や難度が高いとされるが、これら新設学部が序列崩しをしたといって良い。
これは、学費の安さが大きな理由だ。国際医療福祉大は、6年間の学費が1850万円と、私立大医学部の中で唯一2000万円を切り、最安値を更新。
東北医科薬科大は3400万円と標準的な金額だが、奨学金制度が充実している。東日本大震災後の東北の医療人材育成という大義名分の元、多額の修学資金制度を提供しているからだ。
下位グループは、混戦状態となっている。年度により偏差値が上下し、注意が必要だ。
なかでも、東京女子医科大は、大学病院の経営不振の影響を受け、21年度の入学生から学費を1200万円と大幅に値上げした。それに伴い、偏差値も大暴落。同学は、川崎医科大と並び、日本で最も学費が高いツートップとなった。
それ以外の下位グループでも、学費は3500万円超えがほぼ当たり前。もはや「親ガチャ」で当たりを引くか、国公立大の医学部に合格するレベルの超秀才でなければ医師になるのは不可能といっても過言ではないだろう。
私立大と国公立大で難易度逆転現象も
文部科学省が発表した「令和5年度医学部の入学者選抜における合格率」の調査によると、国立大の合格率は30.2%、公立大は31.4%に対し、私立大は8.9%だった。よって、私立大医学部は「合格するのが難しく、不合格になりやすい入試」になっている。
実際、国公立大合格でも私立大に落ちる受験生も珍しくない。
また、一般選抜による入学者数の割合も要チェックだ。入試偏差値の高い大学ほど、「一般選抜」率が高まる。トップ層は一般選抜100%の大学も少なくない。慶應義塾大医学部の一般選抜による入学者は6割弱だが、残る4割は内部進学で、「塾高」でなければ一般選抜に合格するしかない。
国公立大と比較すると、私立大は独自色の強いこだわりや、ひねった問題が出題されやすい。よって、併願先として私立大を選ぶ際は、出題傾向分析をきちんと行う必要がある。
さらに、単科の医科大の場合、作問者のこだわりがそのまま反映されて、クセの強い出題が増える傾向がある。
一方、総合大の医学部は、他学部による抑制が加わり、偏った出題は少なくなるといえるだろう。
国公立大では、北海道大医学部をはじめ、「理系学部共通」の入試を実施する大学もある。こうした場合、極端な難問対策は不要となる。
このような一例は、主な医学部入試の特徴といえるだろう。
国公私立を問わず、とてつもなくハイレベルな学力が求められる医学部の入試だが、近年では、学力以外の資質も重視されつつある。
中でも有名なのは、順天堂大医学部の一般選抜で課される小論文試験だろう。戦時中の特攻隊員の写真を渡し、その家族への手紙を書くことを課したり、アザラシの写真を渡して、アザラシの気持ちの記述を求めるといった、独自色の強い試験である。
一方で、リンゴの皮を剥いたことがない子どもに向けて、ナイフの使用説明書を書くよう求めるのは東海大医学部。愛知医科大では、3年間交際した婚約者に別れの手紙を書く問題も出された。
いずれも、医学や医療との関係は薄いかもしれない。これは、大学側が、事前の「受験対策」の出来、不出来ではなく、もっと基本的な国語力や対話力、正解がない問題に取り組む対応力を求めているといえるだろう。
あくまでも、筆者の予想になるが、学力試験では差がつきにくい状況になっているので、それ以外で選抜する方法を模索しているのかもしれない。
なお、群馬大学医学部では、入学後、基礎の必修科目で「演劇」をさせる授業がある。これは、医師は学力を超えた人間力もつけるべき、という新しい傾向かもしれない。
狙い目は「地域枠」
一般選抜と併願が吉
「旧帝大、旧六医大、そして首都圏の医学部に『安全圏』と呼べる医学部は存在しない」と、ある医学部予備校の情報担当者は語る。医学部合格を目指すなら、全国の医学部を志望校候補として検討するのは、今や、常識となっている。
ほとんどの医学部が、日本各地の医師不足に対応する「地域枠」を設けているだけではなく、推薦入試である総合型選抜や学校推薦型選抜を行なっており、さらに私立大では指定校制推薦選抜も実施している。学力選抜の難度が高まっている今では、こうした様々な入試が実施されていることは、受験生にとってメリットは大きいといえるだろう。
いずれにせよ、医学部入試に勝ちたいなら、まず最新の「入試情報」を持つこと。これに勝るものはないといっても間違いない。
最後に、さまざまな大学関係者と接しているからわかる、医学部合格のポイントを指南しよう。
まず、学校推薦型選抜や学内推薦を視野に入れるべきだろう。圧倒的に受かりやすい。ゆえに、これらに実績のある熱心な中学校、高校選びから行おう。
探せば、ブランド校以外でも難度の割に、医学部の指定校を多く持っている中高も存在する。それらの学内から選ばれる基準、倍率なども聞いておきたいところ。中には、大学から指定された枠が埋まらず、受験さえすれば全員合格となっている学校さえももある。ただし、この情報はなかなか外部に公開されていない。中高の関係者に独自に聞いたりするしかない。
そして、注目は「地域枠入試」だ。これは、エリアトップ高校が有利とされている。いずれにせよ、一般枠より合格ラインは低いものの、難度は高い。最近は、一般枠と地域枠を併願するパターンがメジャーになりつつある。
これでも合格できない場合、4浪までなら医学部受験に再チャレンジするのはよいが、それ以上になりそうなら薬、歯、理学部など他学部に進学して、卒業後に国公立大医学部学士編入学試験にチャレンジする道もある。
学士編入学の入試科目は、主に英語、数学、理科、小論文、面接やプレゼンテーションなどだ。
これら科目の難度は高いものの、一般選抜より狙いやすい。そもそも一般選抜とは受験層が異なり、基本、医学部出身者は受験しないことが大きな理由だ。努力によっては、現役時代、私立医学部にあと少しで合格ラインに至らなかった者でも国公立大を十分狙える。
事実、医学部の学士編入学を専門にしている大手予備校を取材したが、日東駒専(日本大、東洋大、駒澤大、専修大)の理系学部出身者が、国公立大医学部に合格した事例を目にしている。
いずれにせよ、前述した通り、医学部受験は「情報戦」、そして「金」だ。その学費面も、奨学金情報などに注視しておきたい。