寄席はねて 上野の鐘の 夜長哉(正岡子規)―。
寄席といえば上野鈴本。戦前からある老舗の演芸場で、綺羅星のごとく数多くの落語家名人が活躍した。戦前でいえば志ん生、圓生、文楽、正蔵。戦後から昭和後半は、志ん朝、馬生、柳朝、小さん、談志(協会脱会前)をあげておこうか。
大つごもりよろける足で広小路(剛)とばかり、寒風のなか、心もとない足どりで終日寄席に遊ぶ。
今の噺家は、大卒といわれてもあたり前になった。国公立大、早慶MARCH卒の噺家がぞくぞく弟子入りする時代で、筆者贔屓の桃月庵白酒は早大落研、三遊亭萬橘は法政大落研出身だ。学生時代芸にめざめ、落語家の世界に飛び込む若者がいる。ただ入学した時から噺家になろうと決めていたわけでもあるまい。
将来自分が何者になるのか、どういう職を選べばよいのか。塾生にとってはこれが大問題。社会人の自分、そのイメージができないと、大学もどの学部を選択すればよいか、大いに悩む。塾長であるあなたは、そんな塾生にどんなサジェスチョンをするだろう。
塾内でキャリア教育はどこまで可能か。国立教育政策研究所の調査では、高校のホームルーム担任の34.5%が「キャリア教育を実施する十分な時間が確保できない」と回答している(毎日新聞2025年9月20日付)。
つまり、学校の先生は手一杯。個々の生徒の進路相談が、どうしてもおざなりになっているのが実情だ。塾でどのように塾生ひとりひとりへのキャリア教育が行われるか。それが地域の口コミとなり、結果的には入塾希望者増加へと繋がるのではなかろうか。すなわちキャリア教育こそ、塾の浮沈をかけたテーマと言っても過言ではない。
カギは卒塾生と、そこから拡がる社会人ネットワークだろう。キャリア教育はただ職業意識を養うだけでなく、塾生の気づきを得るきっかけづくりだ。まずはいろいろな職についている卒塾生に来塾してもらい、キャリアを語ってもらおう。心ある卒塾生なら必ず協力してくれるはずだ。
さて、中には漱石「三四郎」で「同時代に生きた仕合せ」とまで言わせた泰斗、三代目小さんのような芸人に憧れ、寄席に通い詰めたなんていう学生がいるかもしれない。結果、どうしても噺家になりたいと決心する者もいるかも。それもアリ、だ。静かに見守ってあげよう。
