前回で文末に司馬遼太郎の言葉に触れ、〈江戸時代の諸藩の教育の多様性が、明治統一期の豊富さと活力を生んだ〉と紹介した。まずこの事実を簡単にお浚いしておきたい。
実際、江戸時代の一般庶民の教育レベルは想像以上であった。(以下、東京学芸大学大石学教授著『江戸の教育力』等参照)秀吉以後「戦国時代」が終焉し、家康により平和な世になると、幕府は新たな秩序の基礎に儒教を据え、文治主義を展開した。江戸中期八代将軍吉宗は教育改革を進め、国民教育を振興、享保の改革で藩校設立を推奨し、また庶民教育のため「郷学」(藩半分民間半分の支援も)を各町村に設立、運営する。江戸後期には全国に藩校が300、 郷学は約118、私塾は6500、寺子屋はなんと75000もあったといわれ、識字率は80%近くまで到達している。
寺小屋では読み書きのほか、英学・支那学・漢学など多彩な教科を教え、例えば水戸藩では15の郷学も設け、地域の有力者に医学・国学なども教えた。江戸時代の為政者は教育を通じて儒教的価値観をうえつけようとし、明治以降の為政者は殖産興業、富国強兵を背景に国の担い手を育成した。司馬が言うように「江戸の教育力」があってこそ明治維新が混乱なく実現したのだ。
江戸の300年と昭和までの460年を大雑把にひとくくりすると、この間は国家の要請で有用な人材が求められた。だがここに来て長年の教育システム(プロイセン方式)に大きな歪みが生じる。一例が35万人の不登校生である。しかしこの歪みの対応には対処法しか行われていない。
今、この教育現場に「黒船」が立ち現れている。 AIという革新的なツールだ。今春、読売巨人軍の監督が辞任。理由は長女のAI相談がその発端だった。メディアは連日のように論文提出をAIのコピペで済ます大学生を悲観的に報じ、警鐘を鳴らしている。 確かに「考える力」の喪失など危惧すべき問題は多い。アルゴリズムによる推論で導かれた答えは、すべて正解というわけではない。しかし時代は確実に変わった。この人工知能が教育界に与える影響は、はかり知れないほど大きい。
実は筆者も AIの ChatGPTを使っている。調べものにこんな便利なツールはない、とも思う。
さて、貴塾ではこの革新的なツールをどのように使っておられるか。次号で塾で何ができるか、功罪含めて考えてみたい。(続)
