30年続いた「大学入試センター試験」が「大学入学共通テスト」に変わり、英語民間試験の活用や国語・数学の記述式試験の導入の是非を巡ってバタバタしたのは2020年のこと。
あれは、大学入試改革の序章に過ぎず、新指導要領に基づき実施される25年度入試こそが、入試改革の「本丸」であるというのを忘れてはならない。では、文部科学省が「明治維新以来」とも称する入試大改革の概要をおさらいしよう。
まず、大学受験に必要な勉強量が、爆発的に膨れ上がった。
「英語」で必要な単語量は3000から4000語以上に増加。
「国語」では、「文学国語」が選択科目になり、「実用文」が加わった。大学入学共通テストでは、法律の条文や契約書の文面といった実用文までもが出題される。
「数学」も、「統計」の量が増え、数学教員ですら「初めて見た」という統計用語が登場している。
「理科」でも自然科学の発展に合わせて新語や新概念が追加される。
さらに、「情報」は実技科目から受験科目に格上げ。25年度入試の共通テストで国公立大学の受験生は、「5教科7科目」ではなく、「6教科8科目」の勉強が求められる。
そして、変化が最も激しいのが「社会」だ。日本史と世界史が合体したような「歴史総合」だけでなく、「地理総合」、「公共」も必修の新科目として誕生した。
これにより、国公立大学の受験対策の負担が激増。地域2番手以下の進学校では「国公立大学離れ」が進んでいるという。
そこで、それら受験生が注目する有名私立大学の受験プランのシミュレーションを試みた。
「歴史総合」の有り無しで早慶の併願ラインが崩壊
文系では、これまでは「英語の試験が難しい大学」と、「国語・社会の試験が難しい大学」の2つの併願ラインが存在していた。
早稲田大学の文系学部の入試は後者に該当し、明治大学や法政大学が有力な併願先となる。
一方、上智大学の場合、英語の試験は難度が高く、早稲田大の併願先としては相性が悪い。ここを第一志望にするなら、英語の比重が大きい立教大学や青山学院大学の併願が有利だった。これら大学は、学生のキャラクターやキャンパスの雰囲気はもちろん、そもそも入試選抜の傾向も似ていたのだ。
こうした伝統的な併願ラインが、今回の入試改革で「激変」する。「歴史総合」を入試で課すか、課さないかが大学によって違うからだ。
例えば、早稲田大学法学部では「歴史総合」は出題しないと発表している。ところが、従来の併願先である明治大学法学部は「歴史総合」を出題するという。歴史総合の教科書は256ページ。早稲田大学の過去問対策だけでも大変なのに、さらに歴史総合を勉強する余裕があるだろうか。
よって、かつて併願率が7、8割にも達した「併願しやすい早明」が、「併願しにくい早明」に一変する可能性が大きい。
このように、いくつかの大学で併願ラインの移動がみられる。今のところ、西の大学は「歴史総合」を出題しない傾向が見られる。
さらに、併願ラインの移動で、新たな受験生争奪戦も発生しそうだ。中でも、青山学院大学と法政大学は、「おしゃれな青学」と「骨太の法政」でかつてはすみ分けていたが、今後、真剣勝負が避けられないだろう。
なお、文系学部だけではなく、理系学部でも、「数学」の出題範囲を巡って、新しい併願ラインが発生しそうである。
新指導要領入試が間近に迫り、日本の受験地図が大きく塗り替えらつつあるのだ。
特に私立大学の場合、入試の主役は「年内入試」に移り始めているとはいえ、「一般選抜」が役割を終えたわけではない。