2024.6.26東洋経済新報社主催のイベント『10年後の勝ち組はここだ 「本当に強い大学」の選び方』に弊社取締役の西田が登壇しました。
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ノーイチ先生の「実力派講師のなり方」
なるための条件とは①

当初、編集長からの今回のテーマの執筆依頼は断ろうと思っていました。筆者は世間でいう「カリスマ講師」ではありません。大手予備校のSに専任講師として所属していますが、私より人気も実力もある講師がたくさんいます。

そんな環境で「自分の能力に実力があるか否か」については、常に自問自答してきたつもりです。少なくとも、高校教員7年間、予備校講師20年間で経験を積み、さまざまな講師を見てきた上でなら「実力派講師」について語れると思い、引き受けました。

今、筆者が最も危機感を抱いているのが、若い予備校講師の厳しい就労状況です。少子化で、思うように授業のコマが与えられず、経験を積む機会が少ないのです。簡単に言うと、稼げないのです。

根幹とも言える「講師」がこの状況ですから、今、教育業界には優秀な人材が集まりません。今後は、実力派講師も生まれにくい状況になるでしょう。世代交代も進み、今まで築き上げてきた実力派講師の伝統もうまく引き継ぎが行われず、消滅の危機にあります。ですから、早急に、自前で育てて、伝統を引き継ぐという認識に業界関係者の考え方を転換する必要があります。

実力派講師の評価軸は2つ

講師は授業勝負と思われがちですが、イベントで実力を発揮する講師もいます。ですから、講師の実力の見方は思ったより多様です。

では、実力派講師とは、具体的にどのような評価軸があるでしょうか。私の経験と、同僚の話を基にすると大きく2つでしょう。

まず、塾内評価。これは、集客力、アンケート結果、教材作成能力を指します。集客力は、多くの生徒が授業を受講してくれ、さらに継続してくれるということです。

たいてい、実力派講師は、授業自体に魅力があります。1回の授業で生徒を引き付けます。

もう一つは、個人的評価です。講師の学歴や、指導実績、書籍の出版実績、SNSのフォロワー数などが挙げられます。

前述した個人的評価のうち、気になる指標が、講師の学歴でしょう。しかしながら、実力派講師になるには、意外にそれほど重要視されていない気がします。そもそも東京大学の入試の問題を教えるのみなら、必ずしも東京大出身者である必要もありません。入試問題に精通していれば問題なく指導できます。

書籍の出版実績は、知名度を上げるためには重要です。出版実績は、1冊だけでなく数冊あれば、実力講師としてのブランド、信頼感は高まります。詳しくは、本誌で過去、「塾関係者のための書籍出版」についての筆者の連載があるので、そちらを見てください。

SNSは、今や欠かせないツールです。フォロワー数にこだわらず、定期的に教育に関連する内容を発信することによって講師の考えが伝わり、親近感も持たれます。

何かと講師が気にする授業アンケートですが、結果が良いことが、まさに実力派講師と言えます。遅刻はしないか、内容は正確か、文字は丁寧か、復習や質問はしやすいか、的確なアドバイスはあるのかなど、受講した生徒が総合的に判断します。

良い結果を出すには、自分の授業の売りを意識することです。この場合、「自分の授業は○○だから、絶対学力が上がる」という分かりやすい、シンプルなものが良いでしょう。

かくいう筆者も講師なりたての時は、それがありませんでした。転機は、講師1年目の2カ月が過ぎた頃。質問にきた生徒が「先生の板書ではいつも単位や図を書いてくれるから分かりやすい」と言ってくれたことがきっかけでした。以降、それを売り文句にしたところ、みるみるアンケート結果が良くなり、授業にも自信が持てるようになりました。

最後に、あまり知られていないのが、教材、模試の作成能力があります。

まず、教材とは、どの講師が使っても使いやすく作成する力が求められます。さらに、演習問題の選択や配置、教材を使ってどの時期に何をどの順番で教えるかが重要です。これら全ての流れが生徒の理解度を左右する重要な点です。

ここだけの話、模試や教材の問題を作れる講師はなかなかいません。その希少価値から、一般の講師よりは、貴重な人材として扱われます。この分野はまだまだ需要があり、業界で生き残っていく講師と言えるでしょう。

西村能一
大学受験予備校講師/教育ジャーナリスト
横浜生まれの横浜育ち。「ノーイチ先生」の愛称で親しまれる。横浜DeNAベイスターズとマラソンをこよなく愛する二女の父親。7年間の私立高校教諭勤務を経て、現職。受講生から「ノーイチ先生」の相性で親しまれている。化学現象が楽しく理解できる解説と生徒が復習しやすい板書が定評。受講生から「化学が好きになった♪」といわれることを生きがいに、授業や執筆を精力的にこなす多忙な日々を送っている。教材や模試の作成・編集にも携わり、学校の先生向けに授業のアドバイス、保護者や子供向けに進学アドバイスや講演も多数。これまでに指導した生徒数は50,000人にのぼる。著書は、学習参考書『改訂版化学早わかり一問一答』『改訂版化学基礎早わかり一問一答』を代表作に、『大学入試 化学反応のしくみが面白いほどわかる本』『直前30日で9割とれる 西村能一の共通テスト化学基礎』(以上KADOKAWA)、共著書として、『ここで差がつく 有機化合物の構造決定問題の要点・演習』(KADOKAWA)、『化学頻出!スタンダード問題230選』(駿台文庫)がある。近年は、一般書執筆に力を入れ、著書『科学の名著50冊が1冊でざっと学べる』(KADOKAWA)は、一般の人に向けて「科学好き」を増やすべく執筆。科学関連の発信や講演、さらに、子育てや教育に関する講演も積極的に行っている。明治大学理工学部工業化学科卒業
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