2025.12.9日本経済新聞社『日本経済新聞』に弊社取締役の西田がコメント提供しました
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著書累計販売部数24万部の著者が教える
塾の先生のための書籍出版講座Vol.9

「いつか本を書きたいんです」。そう打ち明けられることが、時々あります。自分の専門を形にしたい。仕事で培ったノウハウを残したい。その気持ちは、私にもよくわかります。

では、本を出すうえで一番難しいことは何か。面白い企画を立てることでも、出版社とのつながりをつくることでもありません。私の答えは、拍子抜けするほど単純です。

「原稿を書き上げること」です。

当たり前だと思われるでしょう。ところが、これができない人が本当に多い。編集者と話していると「企画で終わる人は珍しくない」という言葉をよく聞きます。企画書を通し、章立てを作り、サンプル原稿まで書いた。さあ本番だというところで、ぱたりと筆が止まってしまうのです。

無理もありません。一冊の本には10万字前後の原稿が要ります。章にすれば10章ほど。出版社によっては256ページといった枠が先に決まっていて、書き始める時点で、埋めるべき器の大きさがはっきりしている。その器を、本業の合間に少しずつ満たしていく。想像以上に過酷な作業です。問われるのは才能より、書く時間をどう確保し、どう積み上げ続けるかです。

偉そうなことを言える立場ではありません。私自身、予定通りに書けなかった本は何冊もあります。

『科学の名著50冊が1冊でざっと学べる』(KADOKAWA)は、その最たるものでした。途中で編集者のもとへ相談に行き、「もう書けません」と正直に伝えたほどです。50冊を読まなければ、一文字も書けない。予備校の授業を続けながらでは、原稿はまったく進みませんでした。二度目の相談に行ったときには、半ば諦めかけていたと思います。

状況を変えたのは、コロナ禍でした。授業の多くが止まり、週の大半を家で過ごすことになった。朝起きて一冊を読み、日付が変わるころまでに原稿を書く。翌朝また次の一冊を開く。そんな毎日を繰り返し、残りの40冊ほどを2カ月で書き上げました。机の脇に、読み終えた本が一冊ずつ積み上がっていく。静かになった部屋で、読むことと書くことだけに向き合う日々でした。

あの2カ月で思い知りました。本を書くのに必要なのは、特別な才能ではない。書く時間をつくり、書き終わるまでやめないこと。地味ですが、それが全てだと言ってもいい。

出版社が「最初の一冊」で見ていること

出版社の側に立つと、この問題の重さがよくわかります。

本づくりが動き出せば、編集者だけでなく、校正、デザイン、印刷と、多くの人とお金が動きます。原稿が上がらなければ、その全てが止まる。だから出版社は基本的に、完成原稿がそろうまで本格的には動きません。動き出す前なら、原稿が途中で止まっても企画ごと手を引けばいい。けれど、いったん走り出してからでは、そうはいかないのです。

私の場合は、何冊か出してきたおかげで、最近は原稿が半分ほどの段階から動いてもらえることがあります。「西村先生なら、遅れても最後は書き上げるだろう」。そう思ってもらえているのでしょう。それは締め切りを守ってきたから得たものではありません。遅れても、最後には必ず原稿を届けてきた。その一点で、少しずつ積み上がった信用です。

裏を返せば、初めての著者にはこの信用がありません。最初の一冊で問われるのは、企画の面白さと同じくらい、「この人は最後まで書き切れるのか」という一点なのです。

本を出す人と、出したいままで終わる人。その差は、企画の良し悪しよりずっと手前の、地味なところで生まれます。企画書をつくることと、一冊を書き上げることの間には、想像以上に高い壁があるのです。その壁を越えた人だけが、書店に並ぶ自分の本を手に取ることができます。

では、どうすればその壁を越えられるのか。次回は、私が実際にやっている必勝法「逃げられない仕組み」についてお話しします。

西村能一
大学受験予備校講師/教育ジャーナリスト
横浜生まれの横浜育ち。「ノーイチ先生」の愛称で親しまれる。横浜DeNAベイスターズとマラソンをこよなく愛する二女の父親。7年間の私立高校教諭勤務を経て、現職。受講生から「ノーイチ先生」の相性で親しまれている。化学現象が楽しく理解できる解説と生徒が復習しやすい板書が定評。受講生から「化学が好きになった♪」といわれることを生きがいに、授業や執筆を精力的にこなす多忙な日々を送っている。教材や模試の作成・編集にも携わり、学校の先生向けに授業のアドバイス、保護者や子供向けに進学アドバイスや講演も多数。これまでに指導した生徒数は50,000人にのぼる。著書は、学習参考書『改訂版化学早わかり一問一答』『改訂版化学基礎早わかり一問一答』を代表作に、『大学入試 化学反応のしくみが面白いほどわかる本』『直前30日で9割とれる 西村能一の共通テスト化学基礎』(以上KADOKAWA)、共著書として、『ここで差がつく 有機化合物の構造決定問題の要点・演習』(KADOKAWA)、『化学頻出!スタンダード問題230選』(駿台文庫)がある。近年は、一般書執筆に力を入れ、著書『科学の名著50冊が1冊でざっと学べる』(KADOKAWA)は、一般の人に向けて「科学好き」を増やすべく執筆。科学関連の発信や講演、さらに、子育てや教育に関する講演も積極的に行っている。明治大学理工学部工業化学科卒業
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