今回は、私立大学の入試担当職員からのご質問です。
結論から申し上げます。変わります。それも、大学が想像しているよりはるかに大きく変わります。
ある私立医科大学の入試担当の先生に、数Ⅲを外してはどうかと申し上げたことがあります。先生は真顔で聞き返されました。「数Ⅲを外す程度で、本当にそんなに変わるんですか」。「変わるんです」とお答えすると、先生はしばらく考え込み、こうつぶやかれました。「その感覚は、なかったなあ」。
この一言に、大学内部と受験生のあいだに横たわる溝が凝縮されていると思います。
私はメルリックス学院で長年、私立の医学部・歯学部を目指す受験生と保護者に向き合ってきました。私立医学部の受験生の多くは、何校も併願します。どこを受けるかは、偏差値だけでは決まりません。日程、科目、配点の組み合わせで「受けられる大学」の地図が描かれ、その地図から外れた大学は、魅力があっても候補に入らないのです。
なかでも数Ⅲは、現役生にとって本当に重い科目です。授業も部活もあるなかで、他の科目と並行して毎日積み上げていくのは相当にしんどい。文系出身で医学部を志す再受験生にとっても、数Ⅲは最大の壁になります。
先ほどの大学の推薦入試は現役生が中心でした。数Ⅲがあるというだけで敬遠されていました。大学はすぐに決断し、その年の志願者は大きく戻りました。一般選抜で志願者が激減したあと、数Ⅲを外して回復した別の大学の前例も、私の頭にはありました。
誤解のないように申し上げると、数学の力は数Ⅲを課さなくても十分に測れます。大学にとっては「科目を一つ削るだけ」の変更でも、受験生にとっては「受けるか、受けないか」を分ける決定的な違いになる。この温度差こそ、大学の内側からいちばん見えにくいものです。
面接も「会議室の外」から変わる
面接も同じです。都内のある大学に、面接のあり方について直接お話を伺いに行ったことがあります。焦点は明快で、面接練習で覚えた答えをそのまま吐き出す受験生ではなく、本当の個性を持った学生をどう見抜くか。そこで私たちが提案したのが、MMI(マルチプル・ミニ・インタビュー)です。複数の部屋を回り短い面接を重ね、受験生を多面的に評価する方式です。一度きりの面接では、準備の巧拙がそのまま点差になりがちです。部屋を変え、相手を変え、何度も向き合えば、付け焼き刃は通用しません。
東京医科大学は2027年度からMMIを導入し、二次試験を大きく変え、面接を含む全ての配点を公開しています。受験生が安心して挑める入試を作ろうとする覚悟に、私は先駆者の姿を見ています。
大学の先生方は医学の専門家です。しかし「いまの18歳が何を基準に大学を選ぶのか」「どこで出願をためらうのか」は、会議室の中からは見えません。「この科目があるから受けません」「同じ入試難度なら、こっちにします」。模試の数字には表れないこうした判断を、私たちは毎日聞いています。だからご相談の際は、耳の痛いことでも率直にお伝えしています。
大学改革では、新学部や新校舎に目が向きがちですが、大学は、入試科目、面接の形、受験生への情報などの小さな判断の積み重ねで変わります。そして18歳人口が減り続けるいま、その小さな判断が、大学の10年後を左右します。
科目を変えれば、志願者は動きます。問われているのは、その前に、受験生に最も近い所の声を聞いているかです。
「その感覚は、なかったなあ」。あの一言を引き出せたとき、私はこの仕事をしていて良かったと思いました。
次回は、大学と塾・予備校はどうすれば相談できる関係になれるのか、という質問にお答えします。
