令和4年現在、国内には4年制大学がおよそ800校、学部数となると2500以上にもなります。
戦後(1940年代後半)日本にはおよそ20の大学が存在していました。当時のニーズに応えるべく大学の数は少しずつ増えていき、私が大学受験をしたころ(93年と94年)には500校を突破し、現在に至ります。なんと、学部の数は90年代前半から考えると、ざっと2倍になっています。
90年から2010年までの間は私立大学の設置ラッシュでした。毎年10校のペースで増え続け、20年でおよそ200校増えます。そして10年を超えると私立大学の増加ペースはかなり落ちます。一方で、この間、国公立大学の数はほぼ変わっていません。
学部に関しては、増えたものはまさにトレンドとして見て取れます。
例えば、顕著な学部としては看護学部があげられます。90年代冒頭には、わずか10校程度しかなかったのが、現在では270校以上にものぼります。看護師になるための入り口が、専門学校・短大から徐々に4年制大学に移り変わっていったのです。
このようなトレンドは挙げればいくらでもあるのです。このようなことを知りもせずに「大学といえば国公立でしょ、私立大学なんてないよね」「看護師になる人はもっぱら専門学校でしょ」なんていう進路指導はまずいわけです。
すなわち、時代遅れの進路指導と笑われてしまいます。(ちなみに私は5教科を最後まで勉強させることに意味を感じているので、今でも国立大学推しの進路指導をしています(笑))。
それでは、進路指導の先生だけでなく、生徒や保護者の皆さんが押えておくべき昨今の大学入試トレンドを2つご紹介しましょう。
一つ目は、なんといってもここ数年の注目株筆頭である「数理・情報科学」でしょう。データサイエンスともいいますが、これは、内閣府の「総合科学技術・イノベーション会議」で議論されたのちにまとめられた「AI戦略2019」において情報科学の重要性に言及があったことが影響しています。
「理系人材」へのニーズが急速に増加
情報科学の進歩というのは、新しい科学のパラダイムを作りました。数理・情報科学部が次々に新設されていることは、世の中に流通するデジタル情報量が膨大になり、これらをもとにして意思決定するための知恵と技術が必要になったという時代のニーズに応えているともいえます。
さて、情報科学に似た学問領域としては情報工学もあります。この2つには厳密な違いはありませんが、ニュアンスとしては「情報を扱う新しい技術を作る」のが情報工学、「既存の技術を扱うすべを学ぶ」のが情報科学という違いがあります。
かつて、看護学部、福祉学部、環境学部などが一気に増えたように、昨今学部数を増やしている「数理・情報科学」という学問領域が新しいトレンドを生んでいます。
そして、2つ目のトレンドは「リケジョ」です。
政府の諮問会議である教育再生実行会議(前安倍首相が議長)が廃止され、岸田政権では新しく教育未来創造会議を発足させ、現在までに2つの提言を報告しています。その第1次提言には今後のトレンドを生むであろうヒントが盛り込まれていました。一部を抜粋しますと、「女子学生の占める割合の少ない分野の大学入学者選抜における女子学生枠の確保等に積極的に取り組む大学等に対して、運営費交付金や私学助成による支援を強化する。」とあります。
OECD加盟各国と比べて我が国はリケジョの割合が極端に少ない現状を打開しようとしているのです。「女子学生の占める割合の少ない分野」とはもちろん理工系学部のことで、とりわけ工学部と考えてよいでしょう。
この提言は、大学が工学部の一部の受験方式に女子枠を作るという形でトレンドを生みました。2023年には、富山大、島根大、24年には北見工業大、東京工業大、名古屋工業大、熊本大、25年には宮崎大が女子枠を設置予定です(申請中を含む)。
なお、これらの大学に先駆けて奈良女子大では女子大としては初の工学部を22年に設置しています。
そのほか、中堅校の進路指導では総合型選抜・学校推薦型選抜が急伸しています。文理融合の名のもとに一部の文系学部の入試科目として新たに数学を課すことにしたり、浪人して予備校に通う生徒が激減しているなど、大学受験に関する多くの流れがあります。
最後に、大学そのものの事情も変わりつつあります。10兆円規模の大学ファンドの設立(科研費の調達)、私立大学の公立化(地方創生策)や19年改正国立大学法人法のアンブレラ方式による国立大学の経営統合などの動きにも注目です。
こうしたさまざまな動きをしっかり読み取って、未来を担う子供たちの進路指導をする責任が我々にはあります。